イ | ブ | の | 夜 |
各位殿
クリスマスイブの夜、岸田は会社の仲間と侘しく地元の場末居酒屋で飲んでいた。普段から混むことのない店であるが、この日は特にガラガラだった。 「今日はイブだから、いつもと違う酒飲んでみようか?」日本酒メニューから選んだ酒の銘柄は「今夜は最高!」。 まずかった。名前の珍しさだけで店に置いているようだ。
静かな店の中に、やかましいやつが入って来た。看護婦の由美だ。
「何よあなたたち。イブの夜に男ばかりで飲んでるの? はっはっは。」彼女は今夜男を連れていた。そのため妙に得意げだ。 「ところでとなりの兄さんは誰?」由美の連れは最後までほとんど話をしなかった。無口で内気なタイプで、そのため由美の強引なペースに逆らえず、成行きで付き合っているようだ。ありがちなパターンだ。 「ところで今日は、この町まで何しに来たんだ?」まったく大きなお世話だ。俺は翌日行くスキー場を「アララギ高原」以外の場所に決めた。滑っているところをこいつに見られたら大変だ。町中に『岸田は下手だ』と言い触らされてしまう。 「それじゃあ、またね。」由美は出て行った。彼女はこの町に住んで居たころに徘徊していた飲み屋を今夜中に全部回るのだそうだ。連れの男はグッタリしていたが、由美には逆らえない様子だった。
そろそろ帰ろうと思っていた頃、郵便配達人から携帯に電話が掛かって来た。要件は、「岸田さんのところに小包が届いているが、部屋が留守なのでどうしようか?」と言うもの。田舎の郵便局は親切だ。 「何が来たのだろう? このイブの夜に。」岸田は少し期待しながら雪の中を郵便局へと歩いた。 送り主は、Justチーム一の堅物として知られる郵政幹部の木塚氏。物は洗剤の詰め合わせセットだった。 岸田は木塚氏から年賀葉書を買ったので、そのお返しと言う意味なのだろう。 そのまま岸田は洗剤セットを抱えて自宅へと歩いた。 以上 |