ボルネオ植林報告(1)by チャーリー岸田
その1「熱帯雨林」 バスが到着した場所は、木や草が鬱蒼と茂るジャングルであった。 「なんだ。十分過ぎるほど木が生えているではないか。 どこに植林なんてする必要があるんだ?」これが俺たちの最初の感想だった。 俺たち一行は、会社の企画として行われた自然保護活動である『ボルネオ島熱帯雨林再生事業』にボランティ アとして参加しているのだ。マレーシアのボルネオ島で、乱開発によって失われた熱帯雨林を再生するために参 加したのだが、どう見てもここは熱帯雨林である。 しかし現地スタッフの説明によると、実はここは『痩せた森』なのだそうだ。植物は茂っているものの、これ らは皆本来この場所にあるべきではない種類のものであって、オランウータンを始めとする熱帯の動物たちを 養って行く力はないのだそうだ。
その昔、この地は英国の植民地であって、支配者は金になるラワン材を切りまくって本国に送った。 そして俺たちは、この森の中に本来あるべき在来種の苗木を植えて行くことになる。そしてこの苗木が数十年 後に大木に育って、この森を豊かな森に変えるのだ。200年後にはこの苗木が高さ70mの大木になると言 う。200年後とは何とも気の長い話ではないか。とてもそれまで生きて居られそうもない。 ジャングルで俺たちを大歓迎してくれたのは、蚊、虻、蚋、その他の名前も知らない数々の虫。棘のある植 物。起伏の激しい土地。そして日本の夏とは比べ物にならない暑さ。ジャングルに入っただけで、まるで服を着 たまま海に飛び込んだように汗でズブ濡れになってしなうのだ。これは本気できつかった。とてもサラリーマン の余暇を使ったボランティア活動のレベルではない。 俺たちはこのジャングルの中で、各グループ毎に割り当てられたエリアに、6m間隔に穴を掘って苗木を植え て行くのだが、一番の問題は足場の悪さ。穴掘りや植林作業よりも、その場に辿り着くまでが大変なのだ、。何 本もの苗木とスコップを担いで道無き道を切り開きながら進んで行き、手持ちの苗木を植え終われば、また新し い苗木を取りに戻らなければならない。 しかし俺たちは、現地担当者の予測を上回る効率で作業を進めて行き、半日で本日のノルマをこなしてしまっ た。 「やったーっ! 午後からはホテルに戻ってリゾートだあ!」俺たちの泊っているホテルは海に面した高級リゾートホテルである。しかし予定では、滞在期間中毎日朝から 晩まで植林作業に追われ、リゾートなどする時間はない。しかし今日は午後からのんびりできそうだ。 「それでは新しい担当エリアを発表しまーす!」現地担当者の無情な声が響いた。仕事を早く終わらせればまた新しい仕事が降って来る。これは当社の基本的 な仕組だ。ボランティア活動でも仕事と同じ活動方針のようだ。あーあ。 夕方ホテルに戻ると急いで水着に着替え、僅かな時間のリゾートを楽しんだ。海辺のプールに併設されたオー プンバーから眺める夕陽は美しかった。充実した時間であった。単なるリゾートでは経験できない体験だ。 翌日大きな問題が起こった。現在雨季だと言うのに雨が降らないのだ。ボルネオ島先住民『ルースン族』ガイ ドの予測によると、ここ数日は雨が降りそうもない。とのこと。雨が降らなければ、昨日植えた苗木は枯れてし まうのだ。熱帯の植物は、成木になってからは暑さに強いのだが、若木のうちは直射日光に弱いのだそうだ。 雨が降らなければどうするのか? 答は単純である。「水を撒く」。極めてシンプルかつ明快な回答であっ た。 俺たちは重い水タンクを背負い、ペットボトルに水を詰め、再び昨日のジャングルに入って行った。すると、 昨日植えたばかりの苗木が、葉っぱが黄色く変色し枯れかかっているではないか! このとき俺たちの脳裏に浮かんだのは、「200年後に70mの大木」の言葉。最初は半分リゾート気分で参 加したボランティア活動であったが、昨日1日の活動で「200年後に70m」が、俺たちの夢になっていたの だ。せっかく植えた苗木がこの数日で枯れてしまうか、それとも200年後に大木となって豊かな森となるの か、それが今日の水撒きにかかっているのだ。 水撒きは昨日の植林作業よりもきつかったが、このときは全然疲れを感じなかった。俺たちは重い水タンクを 担いで何回もジャングルとベースキャンプを往復し、たっぷりと苗木に水を与えた。 ■熱帯雨林再生事業の詳細は、下記のURLを参照して下さい。 http://journal.fujitsu.com/268/greenlife/ つづく |