ボルネオ植林報告(2)

by チャーリー岸田

その2「文化交流」

 職場に「ボルネオ島熱帯雨林再生プロジェクト植林ボランティア募集」の広報が回ったとき、岸田は、

「おおーっ! これは行くしかないっ! しかし、こんな魅力的なイベントは参加希望者が多いのだろうな。抽選で選考されるのかな?」
 〜などと思いながら、仕事の都合など考えず、その日のうちに応募した。

 しかし、集まったのはたったの40人。本社、支社、工場、グループ企業、合計すると従業員数16万人の会社でこれだけの応募である。どうしてこんなに少ないのだろう? きっと応募しなかった十数万人は、うっかり広報を見落としたか、それとも本当は行きたくて行きたくて仕方ないのだけど、どうしても仕事の都合がつかなかったのだろう。

 そしてこれとは別に、マレーシア現地法人からの参加者が30人居た。日本人とマレーシア人合わせて70人の大部隊となる。

 マレーシア人の参加者たちも、皆職業は俺たちと同じ技術者や営業、事務職などの都会っ子ばかりである。全員ボルネオ島は初めてで、普段はマレー半島の首都クアラルンプールで働いている。条件は日本人もマレーシア人も同じだ。

 植林作業は日本人とマレーシア人との混成でグループを作り、そのグループ単位に割り当てられたエリアに苗木を植えて行くことになる。

 何しろ過酷な作業である。少しでも効率良く進めたい。ただ穴を掘って苗を植えるだけであれば、片っ端からがむしゃらに進めるだけなのだが、問題は「その1」でも述べたように、苗木の運搬である。

「まずはルートを決めよう。ここをA地点として、ここをB地点とすると・・・」
 俺たちは地面に図を書いてミーティングを行った。まずは段取が重要だ。
「ベースキャンプから現場まで行ったり来たりするより、受持ち範囲を決めてリレーで手渡しして行った方が良いのではないか?」
「その場合、一人あたりの移動距離はこうなって・・・」
「運搬担当と穴掘り担当を分けた方が効率良いのではないか?」
 重要なミーティングなのだが、マレーシア人たちは直ぐにミーティングに飽きてしまい、手近な場所から作業を始めている。まあ仕方ない、俺たちで段取を決めて指示してあげるしかない。
「しかしこの連中、効率とか段取とか、そう言うことに興味がないのかな?」
「まあ熱帯の人たちだからな。」
 しかし、作業を進めて行く上で、実際にやってみなければ判らないことも出て来る。話し合いだけでは決められない部分もあるのだ。
「とりあえず身体を動かすところから始める。ってのも一つの手なのかな。」
 マレーシア人たちのやり方も、まんざら間違いでも無いことが判って来た。

 午前中、俺たちは予定本数を上回る数をこなしたのだが、頑張っているのは日本人ばかり、マレーシアの連中は、やたらとのんびりと仕事を進めていて、頑張って働こうと言う意識が見られない。

「もしかしたらこの連中、俺たちと違って会社の業務命令で参加しているんじゃないか? 本当はこんなことやりたくないのではないか?」
 俺たち日本人の中に不信感が湧き上がった。

 しかし、昼食時に現地法人の日本人スタッフに聞いたところ、事実は全くその逆で、募集枠を遥かに超える応募者があり、彼らは抽選で選ばれた運の良い人たちなのだそうだ。マレーシアの都会っ子たちにも、母国の熱帯雨林再生は大きな関心事なのだそうだ。

 午前の作業を終えてベースキャンプに戻ると、ランチが待っていた。しかし俺たちはテントの前にへたり込むと、そのまま立てなくなってしまった。

 夢中で働いているときには気付かなかったのだが、休憩時間になると身体の疲れが一気に吹き出して来たのだ。どうやら俺たちの身体は、自分自身で自覚しているよりも遥かに疲れているようだ。おそらく原因はこの暑さ。植林作業もなかなか大変だったが、それ以上にこの暑さが体力を奪っているのだろう。

「ちゃんとメシ食わないと、身体が持たないぞ。」
「いや、今は全然食欲無いんだ。もう少し休んでからにするよ。」

 何とか昼飯をかき込んで、少々の休憩の後、午後の作業に出掛けた。午前中よりも苗木が重く感じられる。そして草に足を取られて足がフラついた。

 しかし、マレーシア人たちは、午前中と同じペースで淡々と作業を続けていたのだ。

「なるほど! そうだったのか!」
 このとき初めて俺たちは理解した。ダラダラやっているように見える彼らの作業ペースは、実はこの暑さの中で必要以上に体力を消耗しないための手段であったのだ。そして実は、そのペースで作業を行うことが、この熱帯の地では一番効率的な方法であったのだ。
「おーい! あんまり頑張るなよ! もっとゆっくりやろうぜ!」
 それが俺たちの合言葉になった。

 日頃我々日本人は「暑い国の人々は皆怠け者だ。」と、思っているが、実は彼らはその環境の中で最も効率の良い手段で仕事を進めているだけであるのかも知れない。

 最初のうち、日本人とマレーシア人との間に有ったわだかまりが、たった1日の作業で消えて行った。そして僅か数日間の植林作業を通じて、グループの中に国境を超えたチームワークが醸成されて行った。この仲間とならば何をやっても上手く行きそうだ。

 岸田は今まで、タイ、フィリピン、インドネシアなどの熱帯の国々を旅して来たが、何回も熱帯を訪れるうちに、熱帯の人々に対して疑惑を持ち始めている。

「実はこの連中、本当は『勤勉』とか『効率』などと言った言葉を知っているのではないか? そう言う概念を持ちながらも、外国人の前では知らない振りをして、我々を油断させているのではないか?」
 東南アジアは奥が深い。まだまだこれらの国々には興味が尽きない。

マレー娘

■熱帯雨林再生事業の詳細は、下記のURLを参照して下さい。

 http://journal.fujitsu.com/268/greenlife/

 

つづく

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