ボルネオ植林報告(6)
by チャーリー岸田
その6「コタ・キナバル」
実はボルネオ島の「コタ・キナバル」は上品なリゾート地である。
プーケットやバリ島のような賑やかな盛り場はないし、毒々しいネオンもない。
『アジアの喧騒と猥雑』を求めてやって来るバックパッカーには物足りない所であろうが、治安が良く施設の整備されたリゾート環境は、家族連れや女性のグループ旅行にもお勧めの場所だ。
町には小洒落たホテルやレストランが並び、整備の行き届いたゴルフ場が沢山ある。ダイビングスポットとしても環境が整備されているようだ。
我々の泊ったホテルも☆☆☆☆☆クラスの高級リゾートであった。
「植林活動に、どうしてそんな高級ホテルが必要なんだ?」
と、言う意見もあったが、会社のイベントとして宿泊するので安宿に泊める訳にも行かないのだろう。また、コタ・キナバルにはバックパッカー向けの安宿などは無さそうだ。
しかし、植林参加者の多くは、高級ホテルの豪華な設備には特に感激もしていなかった。
岸田のような昭和30年代生まれのおじさんたちは、『高級』とか『デラックス』と言う言葉に弱いのだが、日本が豊かになってから生まれた20代の若者たちには、そんな言葉はギャグでしかない。バブルの時代には、当時若者であった我々の世代は、贅沢な生活が格好良いと思っていたのだが、貧乏を知らない世代の若者たちは、そんな感覚は持っていないのだ。若者たちの多くは、このような高級ホテルに泊ることを、却って「物足りない。」と感じていたようだ。
そして時代のトレンドは、『ファーストクラスの旅』ではなく、間違いなく『エコ・ツーリスム』に向っている。
我々植林部隊一行は、毎朝バスに乗って☆☆☆☆☆ホテルから熱帯雨林に向い、夕方に戻って来る。
そして日没前の僅かな時間を惜しんで水着に着替え、プールに直行だ。
熱帯の日差しは強く、日没直前まで太陽が燦々と照り付けているが、それも僅かな時間である。あっと言う間に陽は沈み、海は真っ赤な夕焼の色に染まる。
しかしこれが至福の時間であった。この感覚は、リゾートだけの滞在では感じることができないものだ。ジャングルの中で大汗を掻いて働いた後だけに体験できるものだと思う。
ホテルは海に向って突き出した半島に在り、プールサイドのオープンバーは、目の前が海である。
水着のままビールやトロピカルドリンクをオーダーし、俺たちはゆっくりと海に沈む太陽を眺め続けた。熱帯の夕焼は燃えるように赤く海を全面に染めていた。疲れた身体に潮風が心地良かった。
「コタ・キナバルって良い所だな。今回は全然観光できなかったから、今度プライベートでリゾートに来ようかな。」
「いや、俺は植林の方が良い。また来る機会があったら、そのときも植林が良い。」
我々が苗を植えた森は「エコ・フォレスト・パーク」として、エコ・ツーリストのトレッキング・コースになる予定である。
完
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