大森の長い夜

by  チャーリー岸田


 

 先週木曜日の夜、横田が出張で東京にやって来た。岸田は横田を川崎の居酒屋に連れて行った。

横田「明日でっかい商談があるんですよ。勝負掛かってるんですよ。」
  やけに横田は張切っていたが、岸田は早く帰って寝たかった。毎週のヨットやカヌーの遠征で疲れが溜まっていたのだ。
  そこに例のフィリピン人ホステス『リンダ』から岸田の携帯に電話が掛かって来た。
リンダ「今、社長がうちの店で大変なのよ。お願い、フォローしに来てよ。」
  『社長』とは例のリンダの彼氏で、今年5月に岸田と一緒に専務の結婚式のためにフィリピンに行った仲間だ。この社長はアジア一の寂しがりやで、飲み仲間が居なくて寂しくなると、他の客に絡んだり手が付けられなくなる。
岸田「いや、今名古屋からお客さんが来ていて、そちらと飲んでいるから行けないんだ。」
  しかし、しばらく経ってからリンダが心配になって来た。リンダの働いている店で社長が暴れ出したらリンダの立場が困ったものになってしまう。
岸田「ところで横田。まだ飲めるか?」
横田「まだまだバッチリっすよ。」
  岸田の計略は、横田に社長のお守りをさせると言うもの。こうすれば社長も機嫌が直るかも知れないし、岸田も楽だ。
  岸田と横田はタクシーで大森へと向かった。

  岸田と横田が大森のスナックに着いたとき、社長はいきなりゴキゲンになった。

横田「いやいやいや、どうもどうも。」
社長「ひゃははははは!」
  岸田、社長、横田の3人が交替でカラオケを歌い、一人が歌えば残りの二人がタンバリンやマラカスを持って踊る。この3人の馬鹿騒ぎは延々と続いた。
岸田「社長、もう帰りましょう。もう1時過ぎてますよ。」
社長「いやだっ!」
横田「何言ってるんですか?  まだまだこれからっすよ!」
  岸田はここで初めて気付いた。今まで比較したことは無かったが、社長と横田の二人は全く同じパターンの人間だったのだ。そして今、この二人の性格がシンクロしてしまい、もう誰にも手が付けられない。
  深夜の3時を過ぎた頃、岸田はリンダに耳打ちした。
岸田「リンダ。もうチェックしてくれ。こいつらいくらなんでももう満足しただろ。」
リンダ「OK」
  とりあえず会計を済ませ、岸田とリンダは横田と社長を連れて店を出た。リンダは社長が心配なので、3時で退店して来たのだ。
 
社長「じゃあ次行こうか?」
横田「いぇい!  行きましょう!」
岸田「もう、限界っす。」
横田「いやあ、東京の飲み屋は朝までやっているから助かりますよ。名古屋は飲み屋の閉まるのが早くていかんですわ。」
社長「ひゃはははは!」


  結局朝の4時過ぎに、社長の事務所に4人で泊まることになった。事務所と言っても、基本的には社長も専務も仕事は派遣でユーザ先に行っているわけだから、単なる名目上の事務所。机も何も無いワンルームマンション。

横田「やべえ、明日お客に説明する資料、全然読んでねえや。」
  横田は床の絨毯の上に書類を広げると、間もなく気を失い、やがてイビキをかき始めた。そして数時間の仮眠後に彼は二日酔いのまま『でっかい商談』とやらに出掛けて行った。
  この商談が成立したら、その対応のために、横田は毎週東京に出張だそうだ。
  ひゃやあ!  助けてくれえい!

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