おやじギャグ

byチャーリー岸田


 三ヶ月前に、中央アルプスの山間の小さな町に転勤になってしまったヨット乗りからの報告。

 転勤から三ヶ月、週末は毎週数百キロの道のりを越えて海に通っていたのだが、この梅雨ではヨットどころではない。今週末は初めて地元で過ごすことになった。
 土曜の夜は地元の飲み屋に行ったのだが、こんな小さな田舎町では、酒場で[孤独なストレンジャー]で居ることは不可能。人も飲み屋も少ないこの町では、どこに行ってもすぐに常連扱いになってしまい、他の常連客との会話に参加しなければならない。一人で黙って飲みたければ、自分の家で飲む以外に方法はない。

 その日、隣に座ったのは、地元の猟友会の会長。野生動物の多いこの町では、狩猟は一般的な娯楽だ。国道に猿が飛び出すことは珍しくないし、日本カモシカが出たこともある。

「会長は先週も行ったんですか。先週は何が獲れました?」
「おう、先週は象を仕留めたに。撃ったまでは良かったけど、運んで帰るのが大変だったに。」
 う〜む。こう言うのを[おやじギャグ]と言うのだろう。本来であればここでこのギャグに突っ込みを入れなければならないところなのだが、関東出身の俺としては、こう言う状況に馴れていない。突然のおやじギャグ攻撃に戸惑ってしまい、沈黙が続いた。そこでそれを見ていたマスターが、すかさずフォローを入れる。
「本気にしちゃいかんに。このオッサンはボケかましとるだけだに。」
「な〜んだ。ギャグだったのか。本気にしちゃったよ。ははははは。」
 とりあえずこの場はこれで収まったが、問題は[まゆみ]。このとき俺の隣に座っていた地元娘のマユミは、これを本気にしてしまったのだ。
「えっ! この町に象が住んでるんですか?」
「おう。象だけじゃないぞ。ワニもカバも居るに。」
「ええ〜っ! 見たことないっ!」
 最初にこのマユミを見たときは、「この子は馬鹿なのではないか?」と思ったのだが、どうもそうではないらしい。
 マユミはこの町で一番賢い学校を出た才媛で、先般倒産した大手証券会社に勤務していた子だ。この町ではエリートの部類に属する。
 日本アルプスには[中央道の法則]なる定理があり、それは、[名古屋から中央道を北に上るほど、ボケをかます確立が高くなる]と、言うもの。この町の娘さんたちのボケ具合は、多治見の比ではない。
 マユミはこの町から少し北に上った村の出身。ボケ具合はこの町の一般的な20代の娘さんたちと同じレベルだ。日本もまだまだ捨てたものじゃない。

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