奄美の少年(Vol.2)by チャーリー岸田
「ええ〜っ! にいちゃん達、来ないのかっ!」電話の向こうで悲痛な叫び。 俺たちは鹿児島のヨットレースが終わった後、フェリーで奄美大島に行く予定だったのだが、台風の影響でフェリーが欠航となってしまったのだ。 今年の冬、俺たちは生まれて初めて雪を見る奄美大島の3兄弟にスキーを教えた([奄美の少年]Part-1参照)。
「夏休みは奄美に来いよ、絶対だぞ。」その後、奄美の少年達から、手作りの[無料宿泊券]が送られて来た。 スキー場で安請け合いしてしまったために、俺達はわざわざ奄美大島まで行かなければならない破目になってしまったのだ。 少年達は、俺達の想像以上に、俺達が島に来ることを楽しみにしていたようだ。鹿児島から掛けた電話の向こうで、三男の泣き声が聞こえた。
夜になってフェリーが動き出した。予想よりも台風の動きが速く、台風はフェリーの航路を逸れつつあるらしい。
大揺れのフェリーは過酷だった。ヨットには馴れた我々にとっても、波の見えないフェリーのキャビンは勝手が違う。とても歩けないほどの揺れ。そして吐きまくる乗客。
「まずは、[ジャックと豆の木]見に行こうぜ! にいちゃん達が見たがっていたやつ。」スキー場で彼らに聞いた話では、この島には[ジャックと豆の木]のモデルになった、巨大な豆の木があるそうだ。我々一行は、熱帯の密林の中を進む。 目の前に現れたのは、一面モジャモジャの蔓に覆われた一つの山。 「この山の蔓は、全部同じ木なんだぜ。」豆の木の根元は電信柱くらいの太さ。そこから四方八方に蔓が延びている。 「ところで豆はどこにあるんだ?」そう言いながらも、少年達はスルスルとターザンのように蔓を登って行く。 彼らが取って来た豆は、まるで枝豆の大親分。房の長さが1m以上あって、中の豆も直径5cmはある。枯れてカチンコチンに固まった豆でさえこの大きさなのだから、枯れる前はもっとでかかったのだろう。彼らの話では、大人の拳骨くらいの豆もあるそうだ。 「次は海に行こうぜ!」一見白い砂浜以外に何もないような南国の海岸で、彼らはヤドカリだの猪の頭蓋骨だの、色々な物を見つけて来る。その後、海に飛び込んで、法螺貝やシャコ貝を拾って来た。 まるで旅行会社のパンフレットそのままの青い海。どこまでも広がる白い砂浜。他の観光客が一人も居ない原始のままの風景。ああ! やっぱりここまで来て良かった。 島の少年達は、元気で明るく、そして大人だった。元気に遊びながらも、都会っ子の俺達が怪我をしないように、常に気を配っていた。ここでは俺達の方が、何も知らない子供のようだ。 この島では、我々の[大人の威厳]は微塵もない。大人の威厳を取り戻すためには、もう一度この連中をスキー場に連れて行く必要があるようだ。
<奄美の食べ物>
・鶏飯(けいはん) |