危険な罠

by  チャーリー岸田


 

先日、T大ヨット部の同期で、現在我孫子で酒屋をやっている茂樹から電話が入っ た。
 

茂樹「来週あたり家に遊びに来ないか?」
岸田「悪いけど、俺は忙しいんだ。わざわざ名古屋から千葉の田舎まで行っている暇は無いんだ。」
茂樹「そうか。でも今度『越の寒梅』仕入れたんだ。本物だぞ。それからもうすぐ『ドンペリ』も仕入れるんだ。あっそーだそーだ店にある『レミー』も飲んでいいぞ。岸田には世話になってるからな。」 
岸田「いやだっ!」
 俺は今までこいつの口車に乗って何回コキ使われただろう。
「酒を飲ませてやる」と か言って家に呼んでおきながら、いきなり店名入りの前掛けを渡されて、閉店まで配達 だの自動販売機の補充だの空き瓶の整理だのに使い倒される。

 この茂樹は未だに体育会のノリで酒屋のオヤジをやっているので、若手クルー、では無かった、学生アルバイトが次から次へと潰されて辞めていくのだ。
そして人手が足りなくなると、ヨット部OBをだましてコキ使うのだ。

岸田「俺は今色々と忙しいんだ。当分そっちには行けそうも無い。」 
茂樹「しょうがねえなあ。」 
 今回は諦めたようだった。 

数日後、再び茂樹から電話が入った。

茂樹「おお岸田。おまえの見合い相手が見つかったぞ。」 
岸田「何の話だ?」 
茂樹「俺が岸田のために見合い相手を捜してやったんだ。うちの酒屋のレジの横に岸田の写真を貼って、近所の買い物客に良い相手が居ないか聞いていたんだ。」
岸田「馬鹿野郎!みっともない真似するな!」
茂樹「そしたら近所のオバサンが岸田の見合い相手を店に連れて来たんだ。」 
岸田「勝手に決めるんじゃねえ。頼むから止めてくれ。」 
茂樹「何言ってんだ。おまえまだ独身だろ? どうせ彼女も居ないんだろ?」
岸田「余計なお世話だ。」 
茂樹「性格は、そのオバサンの話によると、近所では変わり者で有名だそうだ。岸田にピッタリじゃねーか。わはははは!」
岸田「なおさらいやだ。冗談じゃねえ!」 
茂樹「それならレジの写真は、このままずっと貼っておくぞ。『嫁さん募集中』って書いてな。それが嫌だったらうちまで剥がしに来い。」 
 酒屋のレジに写真を貼られて『嫁さん募集中』なんてやられたら、俺はもうその町に行けないじゃねーか。
おまけにその酒屋は横田の実家の近所なんだ。
横田のねーちゃん が実家に戻ったときに、酒を買いに行ってその写真を見たら、
『やっぱりまだ独身だったのね。こんな恥ずかしい事までして相手を捜すなんてあの人も落ちたわね。はっはっは。』
なんて思われたら悔しいじゃねーか。

クソーッ! やっぱり剥がしに行くか。     

ああ。危険な罠にはまりそうな私....
 

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