裸祭り
by チャーリー岸田


社会学者に言わせれば、『祭り』は過去の遺物なのだそうだ。
曰く、

「祭りは貧しい時代のものです。貧しい人々が年に一度だけ贅沢するのが祭りです。豊かになった現代人には祭りなんて必要ありません。」
 たしかにそうかも知れない。現代人は毎日が祭りだ。生活の中でハレとケの境はなくなりつつある。年に一度の祭りでカタルシスする必要などないのだろう。
 しかし祭りは理屈ではない。「必要」とか「必要ない」とか言う問題ではない。
 俺は祭りが好きだ。好きなものは好きだ。理屈ではない。俺にとってはヨットレースも窯焚きも一種の祭りのうちだ。
 近年久々に燃えた祭りは、硫黄島の三島カップと唐津くんち。
 ばってん、唐津くんちで曳山を曳けるのは地元の連中だけ。よそ者には門戸が開かれていない。
 おまけに岸田の出身地は首都圏郊外の新興住宅地。祭りらしい祭りなど存在しない。
 だから、お祭り男の岸田も、生まれてから今まで神輿など担いだことがない。

 そこでこの街。
 ある飲み屋で、地元の連中の祭りに誘われた。  

「岸田さん、祭りに出んかに?」
「えっ! 本当? 出る出る出るっ!」
話によると、この町は過疎化が激しく高齢化も進んでいるため、御輿を担ぐ人員が不足しているのだそうだ。
そのため、よそ者だろうが誰だろうが、祭りに参加できるのだ。
「よおし! まかせとけっ!ところで用意するものは? 衣装とかどうするんだ?」
「何もいらん。ふんどしはこっちで用意するにっ。」
「えっ! ふんどし?」
 その祭りの内容を聞いてみると。
  1. この地ではまだ真冬の三月中旬。
  2. 雪の中でふんどし一丁で御輿を担ぐ。
  3. 見物人はそれに水を掛ける。
  4. 最後に御輿を担いだまま天竜川にザブザブと入って行く。
 〜と言うもの。田舎にありがちなヤケクソ祭りだ。うわあああ!!!
 他の地方の祭りと違うのは、「都会に出て行った若者が、祭りの時期にだけは絶対に帰省しない。」と言うこと。皆、この祭りに参加したくないのだ。

「んだども、都会の人には寒いかも知れんだらー。」
「馬鹿言っちゃいけねえよ。俺はヨット乗りだぜ。川が恐くて海に出られるかっ。てんだ!」
 まったく酒の勢いとは恐いものだ。
 このハッタリには全く理論的な裏付けはない。実は、川は海の何倍も寒いのだ。俺は川でカヌーを漕ぐので知っている。川に比べれば、海など温泉みたいなものだ。
 おまけにこの時期の天竜川には、中央アルプスと南アルプス両方の山々から流れ出した雪解け水で、水温は限りなく0℃に近い。
 早い話が一年で一番水の冷たい季節なのだ!
 しかし、ハッタリかましてしまった以上、今さら引っ込み付くわけない。
 こうなったらヤケクソだ。わはははははは!!!

 祭りは3月×日に行われる。
 心臓麻痺で死ななかったら、後日、祭りの様子を報告します。見物に来たい方には別途詳細ご案内致します。

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