川下良二の海外事情(8)
by 川下良二
その8 米国格闘戦術・教練編
小生は少林寺拳法三段です。
といっても、学生時代取得したもので、その後は活動はほとんどしていませんでした。
たまに町道場に顔をだしたこともありますが、学生上がりが入り込むような雰囲気ではありません。型を重視し、乱捕り(組み手)は町道場ではあまりやりませんから。
ちなみに、小生の得意技は上段の右回し蹴りで、相手はほとんど避けることはできませんでした。
あのころは、よかった若かった。
小生は米国駐在、休日の暇を持て余し、ひょんなことから少林寺のインストラクターをすることになりました。特に冬場の運動不足解消には最適でした。場所はミシガン大学のあるアンナーバの、カルチャーセンターでした。
生徒はアメリカ人半分、日本人が半分でした。合わせて15人くらいだったと思います。
アメリカ人は体がでかいので、四苦八苦でしたが、なんとかこなしていました。
その中に、年は50すぎのフレッドさんがいました。彼は、沖縄に軍役で駐屯したこともあり、日本通のようです。話の様子からベトナム戦争も経験したようです。
なんとなく米軍の格闘術に興味があり、矛先を向けますと、彼から面白い話をききだし、少林寺拳法と、彼らの格闘術の比較をしてみました。
結論から言いますと、突き、蹴り、投げ、関節技、固め技のそれぞれがよく似ていました。
逆に少林寺の実践度が高いとも言えます。
ただし突き・蹴りは、足場の悪い地域、狭い場所を想定し、肘、膝、頭突き、が有効とのことで、これは、ベトコン相手の戦術と思われます。 派手な蹴り技は不要とのことです。
少林寺は相手の戦意がなくなれば、そこで終わりですが、彼らは違います。
止めをさすことが要求され、百兵戦における徒手格闘の場合、すなわち首の骨を折ることです。2,3その方法を教えてもらいましたが、あまりにも危険な為、ここでは省略します。
反対に、有効な攻撃手段として、少林寺の技を2つほど、紹介しておきました。1つは掌底撃ちで、顔面を狙います。
もう一つは、振り突きで、ボクシングのスイング(反則技)に似ています。肘は90゜に曲げたままです。相手の顎、耳の下に入ると確実に一発で倒すことができます。
話はだんだんエスカレートしてゆき、次にバヨネット(短剣)の扱いも教えてもらいました。やくざのように決して、体当たりはしないようです。相手の攻撃を受け流しながら、相手の柔らかい部分すなわち、腿、わき腹、首を狙っていきます。
最後は、ハンドガンのお勧めと射撃方法。お勧めのガンは、ベレッタM92F(米国政府公式採用)9mm弾の14発装填です。扱いやすさはもとより、汎用性が高いとのことでした。
また、死にたくなかったら、必ず両手撃ちをするようにとのことでした。片手撃ちは、映画の中だけだそうです。
小生も射撃場通いをしました。約5000発ほど撃ったかと思いますが、30cmの円を的とすると確実に当たるのは30FT程度、40FTになると殆ど当たりません。また、思ったより発射するときの爆発音はすさまじく、体に伝わる衝撃を強く感じました。映画やテレビの「うそ」が判ります。
当時湾岸戦争たけなわの時期で、的の絵はフセインの似顔絵でした。
興味への探求という観点からは、大変面白い経験でした。日本では決して知ることのできない部分です。しかしこう紹介すると、このジャンルに知識があるだけで、警察のリストに載りそうです。
しがない、末端のオタクレベルではありますが。
個人レベルで、身を守るなどという行為は、治安のよい日本では考えられないことですし、ましては、一般人が銃をもつことなど許されていません。 知識と経験の蓄積という観点から、心の奥底にしまっておこうと考えていました。
しかし、すぐその後のことです。その知識が役立つ危機が、小生に迫ってきました。
長々と、このシリーズを続けてきましたが、実はその告白をしたかったからです。次回はクライマックス、実践編をおおくりいたします。
つづく。
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