by 川下良二
その9 米国格闘戦術・実戦編
過去8年間、誰にも語らなかった小生の告白です。
その日は、デトロイト市内のあるサプライヤーへ打ち合わせで外出しました。4月上旬でしたが、肌寒く、春にはほど遠い感じでした。
デトロイト市内の治安はすこぶる悪く、現地の従業員さえめったに近寄りません。
小生はその会社の駐車場に車を停めていましたので、車の鍵を開け、後部座席にコート、カバンを入れ前部ドアを開けかかったその時です。後ろから怪しい人物が迫ってきました。 オートマチック拳銃です。
男は銃口をこちら向け、左手を差し出し、催促しています。「金を出せ。」です。後からであれば、状況の分析、描写は可能ですが、その時は突然のことで、頭の思考回路がすべて止まり、真っ白な状態になりました。自然とホールドアップの体勢をとりました。距離は3m50cm。小生は、おもむろに胸ポケットからサイフをゆっくり取り出しました。 ただ一つだけ、まだ思考が働く点がありました。拳銃の情況が判ったのです。 オートマチック拳銃の暴発を防ぐ為には、二つの操作が必要です。
1、は不明です。小生に近づく前に操作済みの可能性がります。 問題は2、です。まさかと思ったのですが、安全装置のレバーが外れていません。もう一度注視したのですが、間違いありません。 「すぐには、撃てない。」しかし、体勢には影響なく、この情況を変えるには足りません。男が気づいて2秒もあれば、安全装置を外せ、即発射可能ですから。 絶対絶命。人生最大の危機です。その小生の姿は、銃に怯える憐れなイエロージャップに映ったに違いありません。
が、小生は思わぬ行動に出ました。思考の上での行動ではなく本能のなすがままの行動です。
男が免度くさそうにサイフを拾い上げようと腰を下げた瞬間です。男の左肩がさがり頭が低くなりました。 ぐったりし動かなくなった男を尻目に、サイフを拾い上げ、車に乗り込み、急発進させました。長居は無用、仲間がやってくるかもしれません。その場を立ち去りました。車へ乗った後、外は寒いのに冷や汗がだらだらと顔面、背中で流れてきました。 ただただ恐怖心です。これも2つあり、「殺される」との直面する恐怖心と、一歩間違えば(蹴りがはずれれば)やはり殺されるのに、ただ自分の意思に反し、本能だけで動いた自分への恐怖心です。せっかく習得した銃の知識と経験は役に立ったのでしょうか?、理性は何処へいったのでしょう。 「これは、チャンス。」と誰が判断したのでしょう。
その後随分、情況を踏まえ検証してみました。ただ金を渡し、命を助けてもらったほうが良かったのかもしれません。しかし、デトロイトの情況を考えると、その後殺されてて身包みはがれても不思議ではありません。理性のない、思わぬ行動をしてしまった(俗に切れた状態でしょうか?)自分にも怖さを感じ、自身も見失った感じがしました。
もちろん武勇伝を語るつもりではありません。あまりも危険で、一歩間違えば死を意味します。
日常生活から、一挙に極限状態に追い詰められた時に、あなたはどうするでしょうか? 萩原氏とは10回契約ですので、次回は最終回です。海外旅行ガイドのウンチクを小生がたれたいと思います。 |