のび太君の話
by チャーリー岸田
10数年前、岸田がN銀行のオンラインシステムを担当していた頃の話。
このプロジェクトには、多くのソフトハウスが参画していた。その中のU社に、「のび太」と言うあだなの青年が居た。
年齢は岸田の5歳くらい下。この当時は専門学校を出たばかりの新人だった。
外見とキャラクターは、ドラエモンののび太とほぼ同じ。良いやつなのだが弱々しくて頼りない。なんと、会社の入社試験に母親がついて来たと言うのだ。
彼は同じ会社の先輩から指導を受けながら、淡々とプログラミング作業を続けていたのだが、このプロジェクトが完了し、次の職場に移った直後に会社を辞めてしまった。
N銀行のプロジェクトに居れば、U社のチーフの指示で動いていれば良かったのだが、新しいプロジェクトではそうは行かない。
時はバブル経済の真っ盛り。どの会社も人手不足が深刻で、20代半ばと言えばソフトハウスでは中堅クラス。今度はU社のチーフとして若手を引き連れてプロジェクトに参画しなければならない。彼はそのプレッシャーに耐えられなかったのだ。
その後のび太は再就職せずに、親のスネをかじって実家でブラブラしていた。
そして父親が地方転勤になり、なんとのび太も親に付いて一緒に引っ越してしまったのだ。
そして今年、Nプロジェクトに参画していたメンバーが久々に顔を合わせ、その中に当時のU社のチーフも居た。彼は現在独立して社長になっている。
「そう言えばこの前、のび太に会って来たぞ。」
「おお! あいつ、今どうしているんだ?」
「まだ親のスネかじって暮らしてたよ。」
「ええ〜っ! あいつ、もう30代も半ばだろう? 何やってるんだ。」
「昼間だけ近所のコンビニでバイトしてるんだ。だけど、時給\800で1日5〜6時間しか働いていないから小遣い銭程度だな。学生と同じだよ。」
「だらしねえなあ。あいつ、そのまま一生やって行くつもりなのだろうか? そんなことじゃ結婚なんて・・・」
「ところがあいつ、結婚してるんだ。」
「ええ〜っ!! そんな生活で、結婚なんてできるのか?」
「実家で奥さん共々親のスネかじっているんだ。」
「げげーっ! そんな生活いつまで続くんだ? 親だって定年退職したりするだろう?」
「先の事は全然考えてないみたいだったぞ。おまけにのび太には子供が居るんだ。」
「〜ってことは、親子3人まるごとスネかじりしているのか?」
「そう言うことになる。」
「情けねえなあ。」
「しかし・・・・・・別の見方をすれば、結婚してるってことは、俺たちよりもちゃんとしているんじゃないか?」
「ギクッ!」
「ギクッ!」
「ギクッ!」
「ギクッ!」
その場に居合わせたメンバーは全員独身だった。平均年齢約40歳。
「ちゃんと働いて、その金を全部遊興費に使っている俺たちと、稼ぎはないけど、ちゃんと子供を育てているのび太と、どっちがまともな社会人なんだろう?」
「う〜む・・・」
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