長久手ビバリーヒルズ(その1)

by ダレヤメの焼酎を愛す男

 長久手ビバリーヒルズと呼ばれるこのまちはワーテルローと姉妹都市の古戦場で有名なまち。
 名古屋の東に隣接し、緑と歴史と文化のまちとの謳い文句で最近住むのに人気なところ。
 家は戸建てが多く、庭には植木の緑がいっぱいで、鉢植えの草花が塀に、玄関に吊され、季節、季節には溢れんばかりの色とりどりの花が咲き乱れ、長閑な田園風景に溶け込んでいる。
 道にははなみずきが植えられ、白とピンクの花をつける。

 最近となりまちで博覧会が開かれることに決まったそうだが、なぜかこのまちに会場の一部がもってこられることになり、静かなまちだったのに、まち中がゆれている。

 このまちも最近まで、肥溜めだらけだったことをよそから来た人は知らない。
 それに役場のあたり一帯は昔、亜炭の採掘をした坑道が縦横に掘られていて、何時地盤が陥没してもおかしくないということは故老しか知らない。

 ここに住む牧童達は牧場での一日の仕事を終えると風呂を浴び夜のまちへ繰り出す。
 酒場の扉を開けると入り口横のカウンターの上に腰の拳銃と携帯電話を預けて入るのがこのまちの習わしである。

 ある闇夜一面がガスっていた。なぜかここは夜、気温が下がるとよく霧がたちこめることがある。

 グリーン牛乳というブランドの緑色をした牛乳をつくっているOK牧場の牧童頭KはいつものバーMajiでジュリアーノ ジェンマばりのベストを着た髭のバーテンにウダウダからみながら「気違いの七面鳥」というバーボンをもう二十数杯重ねていた。舌面は白くただれ、吐く息は自分でもバーボン臭いのが分かった。
 Majiを出たとたん、よろよろと足元がふらつきドブにはまりそうになった。

 牧場への帰り道、最近豪華な邸宅が新築されたばかりで、その家の入り口の円柱の1メートルばかりの街路灯の一番上に白い灯がうっすらと点っていた。
 それは人が近寄ると温度変化を検知し、光がピカッと一段と明るくなる仕組みになっているのだが、牧童頭Kはそんなハイカラなものは知らない。

 霧の中、門に近づいたKはいきなり強く光った灯りに、素早く腰をひねってコルト45を抜き,灯りを撃ち砕いてしまつた。目にも止まらぬ速業で。Kは早撃ちには自信があった。

 長久手では町民は皆銃を持っていて、祭りの時には火縄銃で腕を競うのである。

 この間、まちの東のはずれで泥棒に入られ銃を構えたのだが、火を付けているうちに、逃げられたそうである。

Seaside Cafeのトップへ戻る
HOME