遥かなるコラート(1)
by チャーリー岸田
その1 バンコクの屋台
今週になってから、いきなりK先輩から電話が入った。
K先輩 「今週末だけどさあ、来週の10日を休めば4連休になるじゃん。旅行でも行きたいよな。」
岸田 「そうですねえ。たまにはリゾートしたいっすねえ。東南アジアは今乾季だし、いい感じですよ。」
そのまま一気に週末のタイ旅行が決定した。
国際人の我々にとって、海外旅行など何日も前から準備するほどの大イベントではない。思い立ったら吉日の気楽なレジャーなのだ。
K先輩 「それじゃあ、俺が航空券の手配しておくよ。」
岸田 「はい。それじゃ岸田は柴ヤンに連絡取ってみます。宿泊先は柴ヤンに聞いてから決めましょう。先輩は飛行機のチケットだけで良いっすよ。」
K先輩 「おう!」
すかさず今日、K氏が航空券を獲得。ところが・・・・・・
柴ヤンと連絡が取れない。メールを送っても返信が来ないのだ。また現地の電話回線のトラブルだろうか?
「海外旅行なんて気楽なもの。」と、息巻いて見た我々だが、柴ヤンと連絡が取れなければ海外の空港で路頭に迷ってしまうのだ。あああ!
柴ヤン! メールくれっ! 俺たちを路頭に迷わせないでくれ!
おっと、どうした国際人?
満席のエコノミークラスで7時間。我々がバンコクに着いたときには現地時刻で22:00を過ぎていた。日本時刻では0:00過ぎだ。
我々は空港の案内所でホテルを予約し、タクシーに乗った (注1)。
ホテルはスクンビットの「グレースホテル」。料金はツインルームで一泊1,060バーツ(約\3,000強)。バックパッカーの泊るゲストハウスが\600〜\800であるのに対し、ちゃんとシャワーからお湯の出るホテルで一人あたり\1,500程度であれば、絶対にこちらの方が得だ。
ホテルは13階建の立派な建物だった。ところがその中は・・・
宿泊客の大部分がアラブ人。そしてロビーや1階のコーヒーハウスは、アラブ人とタイ娘たちの「ねるとんパーティー」の場になっていたのだ。
我々がホテルに着いたのは0:00近く、その時刻にはこの近辺の風俗店は閉っており、今宵の客を見つけられなかった風俗嬢たちがアラブ人の客を求めて次から次へとロビーに現れ、それを客が物色する場になっていたのだ。
『地球の歩き方 バンコク編』によると、このホテルは「アラブ人の多いホテル。1階のコーヒーハウスの雰囲気は不気味」とある。この不気味の意味が判った。いきなり強烈な所に来てしまったようだ。
我々はとりあえず荷物を置いて外に出た。とにかく俺達は腹ペコだ。
ホテルの周りはエジプト料理だのイラク料理だのアラブ系の店ばかり。ここはアラブ人街の真っ只中だったのだ。俺たちはタイ料理の屋台を求めてスクンビットのソイ5に向かった。
路上には、歩道やシャッターの閉った店の前に隙間無く屋台が出ている。そして路上は人で溢れ、その活気がもの凄い。バンコクの屋台はいつでも眠らないのだ。バンコクの一般庶民は、自宅で料理を作ることが少なく、多くの人々はこれらの屋台で買って来た食べ物を食べている。 (注2)
K先輩 「うひゃー! 凄い活気だあ! アジアを感じるぜ。」
我々は米で作った麺を食べた。これはこの国では一般的な料理だ。屋台のおばちゃんは籠に入った野菜(強烈な香草)を我々の鼻先に付き付けて何か言っている。おそらく「この匂いは大丈夫か?」と聞いているのだろう。
K先輩 「オッケーイ!」
岸田 「オッケーイ!」
俺たちは何でも大丈夫だ。折角バンコクに来たのだから、何でもかんでも食べてやる。香草だけでなく、屋台に置いてあるあちとあらゆるトッピングを丼にブチ込んでもらい、貪欲に食べ続けた。
身体がヘロヘロに疲れていたが、まだまだホテルに帰る気はしない。このアジアの喧騒にもっともっと浸っていたい。
屋台は食べ物ばかりではない。お土産物から生活用品まで、ありとあらゆる物がそこでは売られている。K氏は女物の衣類の売られている屋台の前で足を止めた。
K先輩 「タオライ?」(HowMuch?)
岸田 「そんな服買ってどうするんですか? 奥さんがそんな服着るはずないじゃないですか!」
K氏が選んだのは、日本では一昔前の『ジュリアナ』以外では着ることのできない、まるで水着のようなボディコンだったのだ。
K先輩 「そうかな? 似合うかも知れないぞ。」
岸田 「そんな服買って帰ったら、奥さんにぶっ飛ばされますよ。」
K先輩 「う〜む。それじゃあ止めとこう。」
既にバンコク到着当日に、アジアのパワーに圧倒されてK氏は日本人の感覚をなくしている。タイではそれほど派手に感じられない衣類でも、とても日本で着ることなどできない。そんな感覚を麻痺させるほどバンコクの熱気は圧倒的だったのだ。
その後俺達は、2時間以上に渡って真夜中の屋台を回り続けた。
ホテルに帰るとロビーの賑わいは一層増していた。アラブの連中は、本国では厳しい戒律を守って生活している分、外国に出ると目を血走らせてふしだらな遊びに燃えるようだ。本国では奥さんや娘にブルカを被せておいて、ムスリムの戒律の及ばない所で一気に発散しているのだ。そこに我々日本人の入る隙は無かった。
つづく
<注1>
東南アジアでは、ホテルやタクシーは空港で予約した方が安い。飛込みでホテルに入ったり流しのタクシーを拾うよりも、正式ルートで予約した方が安くなるのだ。
(柴木)
タイではホテルの料金表示は、部屋のサイズで無く宿泊定員です、朝食付きの場合は食事代だけの差額です。日本人のツアーの多くが利用する中級ホテルでもツインで1000バーツ程度です。
ホテルは飛行場の前の通りにある、旅行社で宿泊クーポーンを購入した方がもっと安いです。タクシーは飛行場の出発ロビーのある3階で、客を降ろしているタクシーを拾うのが一番安いです
「三階では乗車禁止ですが、タクシーの運転手も空港入場料を払わずに済むのと、下のタクシー乗り場で待つ時間がなくなるので拒みません」
通常の料金を知っていればボラれる事はありません。空港のリムジンバスは1名なら採算が合いますが、2名以上では割高でホテルの前までは行ってくれず、タクシーの方が安いです。リムジンタクシーは高価で論外です。
<注2>
夜の屋台が閉るのは明け方。するとすぐに交替で同じ場所に昼の屋台が出て来る。バンコクの屋台は眠らないのだ。
(柴木)
君達を見ていると食べ物に対して大変な冒険者だと思う。「いつかは痛い目に・・・御注意」
(岸田)
だって美味いんだもん。
下記の写真はタイ料理として日本でも有名な「タイスキ」。
味付け以前の問題として、材料がやたらと美味い。
野菜にコクがあって、そのまま食べても野菜本来の甘みと苦味だけで十分満足してしまう。この国で素材が美味いのは卵だけではないのですね。
岸田は、本来ナベに入れるべき野菜を、そのままドレッシングもマヨネーズも塩も味噌も何も付けずに生でバリバリと食べてしまった。写真でK先輩が左手に持っているネギみたいな格好の野菜は何って言う種類なのですか? あれが一番美味かったです。結局1本もナベに入れずに我々2人が全部生で食べてしまったけど。
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