KENWOOD CUP 1996 (vol.3)

byショーケン


   
8/7

 今日は第5レースのスタート。180マイルのモロカイレースだ。コースはオアフ島をスタートして、モロカイ島に沿って進み、マウイ島沖のマークを回航、来た道を戻ってオアフ島のスタート地点にてフィニッシュだ。スタートは夕方18時15分。それまで整備や食料買い出しなど準備する。昨日のレースでスピンハリのシャックルが抜けた点について下ちゃんと考察する

「やっぱり、このリングに引っかかるんじゃないですか?」
「そうだな。切ってしまおうか。ここに指が入るから開けるだろう」
 このシャックルは今回のレースのために新しくつけたもの。シャックルを開くために引っ張る所に大きなリングがついている。これが何かに引っかかるのだろう。なんでこんな大きなリングが必要なのだろうか。
問題と思われるリングを鉄ノコで切断した。これでバッチリだ。
夕方近くになると、各艇、レース中の食料を積み込み始める。我々の隣のN/M-39 "Jackrabbit"なんかは、大きなフライドチキンを皿にいっぱい盛ったものとかを積み込んでいる。
「こいつら、パーティでもする気なのか?」
「外人は本当にすごいな。あんなの、海の上で食えねえぞ。戦争やっても勝てねえわけだ」
 他に隣になっていた艇にMUMM36の"Jameson"がある。彼らはアイルランドからやって来たのだが、MUMM36の中ではダントツに速い。日本に帰って来てから、その"Jameson"のフェンダーがJUSTの中で発見された。柴木氏の話によると、"Jameson"はスタンションの修理のため、ライフラインを外したとき、自分のフェンダーをJUSTにつけていたそうだ。そのまま俺達が気づかないで出艇したらしい。1999年の現在、JUST SEVENは関東の「ラハイナ」となっているが、そのフェンダーの数個は"Jameson"のフェンダーなのだ。フェンダーも日本に連れて来られるとは思わなかっただろう。

第5レース

 スタート時刻が近づき、スタート海面に出て行く。スタートラインはダイヤモンドヘッド沖だ。おお、波が高いぞ。風も25kt以上吹いてる。カッパだ、カッパ。No.3をホイストする。メインはフルメイン。今回はスタートできわどいシーンは見られなかった。180マイルのモロカイレースの始まりだ。距離的には鳥羽パールレース(神津島回り)レベル。ちょっと35フィートでは辛いものがある。マキシの「さよなら」なんかは、あっと言う間に見えなくなった。本当にさよならだ。
そのまましばらくNo.3で走る。オアフ島を離れる前に風が落ちてきた。まだ暗くなる前にNo.2にチェンジする。ハリヤードはスピンハリ(右ウィング)を使用。モロカイ島へ向かってタックしながら進む。日が落ちてきて、暗くなってきた。パールレースなどと違い、あたりは完全に闇に包まれる。本当に真っ暗だ。そのかわり、この満天の星はどうだろう。すばらしいの一言だ。
 すばらしくないのが、我々のハリヤードだ。徐々にテンションが抜けてくる。タックの度にテンションを入れるのだが、大した効果が見られない。どうなっているのだ?
モロカイ島付近で風が上がってきたので、No.3にセイルチェンジ。ジブハリが使えない(原因不明だが、根元の外皮が剥けているらしい)のでNo.3をセットして、No.2を下ろしてからNo.3をホイストすることを打ち合わせる。バウに行き、No.2をダウンする。何か変だ、ポケットライトで上を照らすと何か固まりのようなものが見える。

「おーいショーケン、どうなってるんだ?!」
五十嵐さんの声がする
「よくわかりませーん!」と答える。だって、わからないもんね。
力ずくでNo.3を下ろすとハリヤードが伸び切って変になっているのがわかった。外皮がズル剥けになってクシャクシャになっている。テンションが入らなかったのはこいつが原因だ。とにかく、このハリヤードは使えない。
「ハリヤードの使えない所は切ってしまえ!」
 ナイフを抜いてクシャクシャの部分を切る。先端のシャックルは自分のハーネスに付けておいた。残りのハリヤードはマストの根元にくくりつける。後で修理だ。
トッピングリフトに使っているセンターのハリヤードでNo.3をホイストすることにする。このハリヤードは少し細いので避けたいところだが、この状況では仕方がない。シャックルをジブにつけようとすると・・なんとシャックルが壊れているではないか。
 

 やっと理解できた。レース前に切ったリングは、実は抜け止めだったのだ。それを切ったものだから、シャックルが分解してしまったのだ。何をやっているんだ(オーナーごめんなさい)。幸い、先ほど外したシャックルがある(これはGIBのお馴染みやつ)ので、センターハリヤードに付け替え、ようやくNo.3がホイスト出来た。
夜明け頃、風が落ちたのでNo.2にチェンジ。8時頃、モロカイ島の先端を過ぎてマウイ島に向かって走る。日差しが強くなり、眠気が我々を襲う。そして大型艇がどんどんスピンを上げて通り過ぎて行く。我々はまだまだ上りで走らなければならない。
 

 マーク回航するころには、近くを走っているのは諸磯チームのX119とシーボニアチームのJ35だけだった。10時頃マーク回航。それまでに柴木さんがハリヤードを修理してくれて、2本使えるようになっていた。モロカイ島の先端付近で0.75のスピンをホイスト。スピンに風が入ると艇のヒールはわずかにきつくなり、マストとキールがかすかに振動する。波を乗り越え、サーフィングするとメーターの数値は13ノットを超える。それと同時にエメラルドグリーンの水が急激な勢いで後ろに流れ始める。かつて味わったことのない快感だ。
 

 J35はモロカイ島に寄せ見えなくなった。X-119はほとんど我々と並走。抜きつ、抜かれつを繰り返す。ほとんどそのままレースは続く。艇速はほとんどずっと10ktを超えていた。
デッキ上のクルーの服装はバラバラ。上半身裸の人もいれば、薄いポーラ地の服を着ている寒がりの奴(すんません、俺です)もいる。俺は昨夜、帽子を飛ばしてしまったので、タオルを頭に巻いている。実は、この時点で頭も日焼けしていて、頭がかゆかったのだ。頭が日焼けして、めくれた皮がフケみたいにボロボロ落ちるというのは始めての体験だ。
17:41、フィニッシュ。その間にジャイブが1回入っただけで、大きなアクションはなかった。長かったのか短かったのか、よくわからないレースであった。
 

このレース、クラス9位。

 つづく

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