KENWOOD CUP 1996 (vol.6)

byショーケン


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 第9レースは390マイルの”カウラレース”。オアフ島の東端をぐるっと回って北上、オアフ島を離れると西へ、カウラロックを回ってカウアイ島の北側を通り、オアフ島のホノルル沖へ帰ってくるレースだ。朝早くから荷物の積み込みを開始する。スタートが12:15なので、結構時間を持て余した。
 スタート海面に出てみると、風は25kt程度。ヘッドセイルにNo.3を選択し、スタートに備える。スタートは真中よりやや下を狙う。オールフェアでスタート。ダイヤモンドヘッド沖からココヘッドを目指す。クローズホールドでタックを繰り返す。大型艇は少しづつ視界から消え、周りはお馴染みの35、36フィートクラスの艇だけになっていく。
 海岸線沿いに家が点在して建っているのが見える。こういうところに住んでいるって、本当にうらやましい。特にこの辺りは今まで見たところより水がキレイなのだ。ここが、プレスリーの映画「ブルーハワイ」で日本人に知られるようになった(と母が言っていた)”ハナウマ・ベイ”だ。レース終了後にバスに乗って行ってみたが、魚がたくさん泳いでいて、すごく良い所だった。レース中は、そんな有名なところだと知らずに、ただただラムネの瓶を割ったような色の水にうっとりしていたのだった。
 スタートして2時間弱でココヘッドをまわり、切り立った崖寄りのコースを走る。 ゴツゴツした巨大な岩場は日本では見ることができない風景。その岩場にレース艇は目一杯寄せる。なかなか絵になる光景だ。写真を撮りたいのをぐっとこらえてハイクアウトする。この辺りでマム軍団に次々と抜かれていく。進路が北西に向き、スピンが張れる角度になった頃には、周りはお馴染みのX-119とJ-35だけになっていた。
 0.6ozのスピンを展開し、リーチングに入る。艇速は9?12ktをキープする。オアフ島の裏側は建物がほとんど見られない。
 さて、食料は豊富に積み込んである。お菓子類はアメリカ人好みの味付けなので、ちょっとどぎつい。やはりフルーツ類だろう。柴木・新美コンビが、大量のプラムを買いこんでいた。レース中に食べる冷えたプラムは、格別だ。
 誰かが中に入ろうとした木塚氏に声をかけた。

「木塚さん、プラム取って」
「おう、・・・でも読めるかな?」
そう言い残して木塚氏はキャビンに消えた。
しばらくして、木塚氏が顔を出した
「これかっ!!プラム!!」
木塚氏の手に握られていたのは、クラッカーか何かのお菓子の箱だった。
「木塚さん、プラムってすもものことですよ!す、も、も!」
「なにー!すももか!それを早く言わんといかんがや!!」
一同、大笑い。そうしている間に、オアフ島先端が近づいてきた。大きな風車がたくさん見える。風力発電所だ。ああいうのを見ると「外国に来たんだなあ」とつくづく思う。
 オアフ島先端を過ぎたのは17時頃。そのままスピンで時々ジャイブを入れながら走る。18時からワッチに入る。Aチームは萩原・下村・五十嵐・竹内・後藤、Bチームは横田・新美・柴木・木塚・小松である。Aチームからスタートして3時間ワッチ。Aチームは黙々とセイリングする。後藤ヘルムスマンは「俺はこれだけでええ」とタバコを吸うだけで、食料はほとんど口にしていない。一方、Bチームは賑やか。食料買い出しチームの2人がいるせいか、かなりの食料が消費される。夜中にスピンがフォアステイにからんだので下ろし、再ホイスト時に0.75OZにチェンジした。
 昼前頃、カウラロックに到達した。本当に単なる岩である。レースに出ない限り見ることはないだろう。カウラロックを回るとスピンがはれなくなるので、No.3ジブをホイスト。アビームで走る。そのままニイハウ島付近まで走る。夕方近くにニイハウ島が近くに見える位置まで来た。風が落ちたのでNo.2にチェンジする。このとき、No.2のセイルバッグを流してしまった。(オーナー、ゴメンナサイ!)うしろで、”さよなら”なんかがこれを拾ったら我々は失格だ。(んなわけないか)
 ニイハウ島を抜けるところで、ブランケットがあり、いろいろな艇が止まっているのが見えた。我々もNo.1ヘビーにチェンジする。
「あの黒いメインの模様、”さよなら”か?」
「いや、あれは”White Cloud”だ!」
「おっ!チャンスじゃねーか」
しかし、我々付近も風が落ちてくる。ヘッドセイルをライトにチェンジ。ついに下ハイクして艇をヒールさせなければならない状態になった。
「スピンがはれるんじゃねーか?」
と0.6をホイストしてみたり、色々とやってみるが苦しい。リベルテのような40フィート以上の艇やMUMM36も近くにいて苦戦している。こういう状態が1、2時間続く。
 

 夕方近くになり、風が少しづつ入り、艇が走り出した。0.6ozのスピンで走る。風が上がってくると同時にスピンがはれなくなったので、No.2をホイスト。そのまま順調にカウアイ島北側を目指す。夜になると風はさらに上がり、No.3にチェンジ。それでもヒールがきつくなったので、メインをリーフする。結構大変だ。
 俺がワッチオフの間にメインはフルメインに変っていた。風も少し収まったようだ。夜中のうちにカウアイ島を通過。そのまま上りで、時折タックを入れながらオアフ島へ向かう。凪の時に近くにいた大型艇はそのまま先へ行ったようで、全く見えなくなっている。ヘッドセイルはNo.3から変らず。
 昼過ぎ、オアフ島北端に近づいた。ここで、MUMM36の"SERVER"とミート。風が少し落ち、No.2にチェンジ。これが結構、もたついた。この後、イルカの親子に遭遇。"SERVER"が少しづつ先行し、距離が開いていく。このまま、オアフ島をグルっと回ればフィニッシュだ。No.2のまま走る。日が暮れて、3度目の夜が来た。

「あの岬を過ぎたら、スピンが上がるぞ」
0.75ozのスピンをセットする。
「お、風が少し後ろに回った!スピンホイスト!!」
スピンをホイストし、スピンに風が入ると、艇がガクンとヒールし、狂ったように走り始める。バウチームは大はしゃぎ。
「ヒャッホー!!」
ところが、後ろから声が。
「スピンダウンだ!急げ!!」
スピンを回収して、No.2をホイストする。スピンをコントロールできない状態だったらしい。
ココヘッドをまわると、フィニッシュまであとわずかだ。
ホノルルの夜景が見えてきた。その美しさは言葉では表現できない。
「ショーケン、あの夜景をバックに写真撮ってやるよ」
新美さんが写真を撮ってくれた。
「これがうまく写ったら、100万ドルだぜ」
出来上がった写真の俺のバックは、街の明りがわずかに写っていて、蛍のようだった。

 22時過ぎ、フィニッシュ。これでKENWOOD CUPの全てのレースが終わった。何とか無事完走することが出来た。
 ハーバーへ戻ると、オーナーや花川さん達が冷えたビールを用意して、桟橋で待っていてくれた。そこに、ワイキキヨットクラブの女性2名が祝福にやってきて、「Congratulations!」とスキッパー(五十嵐さん)とナビゲーター(横田さん)にレイをかけ、大きなビンを差し入れてくれた。

「マイタイだぜ」
一口飲んだだけで、めまいがしてきた。酔いがまわると共に、無事終わったという安心感と、かつて味わったことのない充実感に満たされた。最高の気分だ。
 

 堀田オーナー、すばらしいチャンスを与えて下さって本当にありがとうございます。
 

おわり

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