Phuket King's Cup 2000 (1)
by チャーリー岸田
part-1 「ママは何でも知っている」
King'sCup出場3回目のKenは、今年もプーケット島に着くなり馬鹿でかいハーレーをレンタルし、カロンビーチへ向けて海沿いの道を飛ばし始めた。今年もこの道の先にアバンチュールが待っているのだ。
海から上がれば、もうヨットは関係ない。毎晩のビーチパーティーをぶっちぎり、毎年のように1人でバイクを駆り、未知の出会いを求めてさすらうのだ。
しかし、さすがのKenも既に30歳過ぎ、長旅の疲れは無視できない。
「マッサージでも受けて行くか。」
タイにはヨガの流れを汲む「タイ式マッサージ」がある。日本で言えば「指圧」のようなものだが、これがなかなか気持ち良いし値段も安い。
Kenは海沿いの、とあるマッサージ屋に寄った。
このときKenを担当したのが今年20歳の「ヴイ」。
タイ式マッサージには、地方の貧しい農村からやって来た若い娘たちが働いている。その多くは地味な田舎娘だが、このヴイは違った。
貧しい農村から出て来た娘には違いないが、知的な瞳と利発な会話。彼女にはKenの琴線に触れるものがあった。
Kenは早くも今年のアバンチュールの相手と出会ってしまったのだ。
マッサージの最中に彼女の電話番号を聞き出し、今宵のデートの約束を取り付けた。
そして夜。ヴイが家に帰る頃、彼女を電話で呼び出した。
「これから俺のホテルに来ないか?」
「今から行くわ。」
ホテルの同室の連中は、今夜もレースのパーティーに行ってしまう。邪魔が入らないのであれば、わざわざ遠くに出掛けて行く必要はない。また、リゾートホテルなど無縁な現地の娘には、外のオープンバーよりもホテルの部屋の方が気に入るかも知れない。
10分後、ホテルのドアがノックされた。
「おっ、来たな来たな。最初はどんな言葉を掛けようか?」
ドアを開けると、外に立っていたのはヴイではなく、でっぷりと太った中年のオバサンだった。
「えっ?」
「私はヴイのママよ。娘が心配になって代わりに来たのよ。あなた結婚指輪しているじゃない。どう言うつもりでヴイを誘ったの?」
「いや・・・あの・・・その、ヴイはマッサージが上手かったから、またマッサージしてもらおうと思って。」
「あらそう。マッサージなら私の方が上手いわ。ベッドに横になりなさい。」
Kenは否応無く、ヴイママのマッサージを受ける破目になった。
ヴイママはKenの身体を揉みながら、彼女の人生とタイの男について語り始めた。
「タイの男は怠け者ばかり。ろくなやつは居ないわ。昔の私の旦那、ヴイの父親もろくでなしだったから離婚したの。」
マッサージ屋で働く娘たちは、店の裏にある長屋に住んでいるパターンが多いのだが、ヴイの場合は母親と二人で田舎から出て来て一緒に住んでいるらしい。
「日本の男は働き者だって聞いたけど、あんたみたいなナンパ男も居るのね。」
「へへーん。男なんて皆んな同じだぜ。」
「私はねえ。そう言う男が嫌いなのよ。酷い目に遭っているからね。Kill You!!」
ヴイママはKenをベッドに押し付けた。
女性の力とは言え、タイ式マッサージは関節技を使う。抑え付けられたら逃げることはできない。
バキバキバキバキバキバキ・・・・・・
「痛ててててててててててて〜っ!!!」
バキバキバキバキバキバキ・・・・・・
「痛ててててててててててて〜っ!!!」
その後2時間に渡って、拷問のようなマッサージが続いた。
翌日もまた、Kenはレースが終るとバイクに跨ってホテルを出た。
「またオバサンのマッサージに捕まる気か?」
「いや、昨日のマッサージはなかなか良かったですよ。それじゃまたっ!」
バイクの轟音とともに、やつはまた新しいアバンチュールを探しに出掛けて行った。
|