Phuket King's Cup 2000 (4)by チャーリー岸田
part-4 「マイペンライ」
第2レースもまた微風。相変わらずノーレースぎりぎりの戦いが続けられている。
この日我々は、日没前にフィニッシュし、浜に上がったのは夕焼けの時間帯だった。もちろんこの時間帯では、モノハルのクラスはレースが続いている。 「うちのチームが帰ってこないのですが・・・」シーボニアチームの奥様方だ。彼女たちは、各国のチームがどんどん帰港して来るのに、旦那様の乗った船だけが帰って来ないことを心配していたのだ。 日本男児は陽が暮れても、途中でレースを投げ出すようなことはしない。多くのチームがリタイアしても、最後までレース止めないのだ。俺たちも過去のチャレンジで夜遅くまで走り続けた経験がある。 「うちのチームは何かトラブルでもあったのでしょうか?」そこに濱ちゃんが割り込んで来た。 「シーボニアの船は、ぶつかって沈んだバイ!!! わはははははは!!!」この人は今回、ずーっとこの調子だ。この場の空気とピントがズレまくっているのだが、それを全く気にしていない。 彼は元々トロピカルな性格なのだが、これが熱帯の環境と同調してしまい、プーケットに来てからず〜っとこの調子で舞い上がっているのだ。 しかし、濱ちゃんのノリが実はこちらでは正しい方法なのかもしれない。 アメリカのチームが上陸して来た。メンバーの中には、何人かの現地人の女性が混ざっている。 「おっと、あの子は昨日までレース本部横のテントでノベルティグッズを売っていた子ではないか?」次にオーストラリアチームも上陸して来た。このチームにも現地人の女性が混ざっている。 「おっと、あの子はこのホテルのレストランのウェイトレスではないか?」皆、働いているところをレース参加者にナンパされ、そのまんま職場放棄して一緒にヨットに乗っているのだ。 ところで、彼女たちは自分が放棄した職場の中を平気な顔で歩いているが、気まずくないのだろうか? レーススタッフもこのホテルも、レース期間である今が1番忙しいときではないのか? 「マイペンライ!」(気にしない気にしない。)これだ。タイでは何でもかんでも「マイペンライ」で片付いてしまうのだ。皆とても大らかに生きているのだ。ホテルの従業員も、ナンパされて次々と職場放棄して行く女性たちの行動を見越して、次々と新しい人員を補充しているようだ。これで問題なく営業が続けられるのであれば、それはそれで良いのかも知れない。 だが・・・レース艇には定員があるはずだ。新しいメンバーを乗せるのであれば、その分誰かが降りなければいけないはずだ。 「マイペンライ。」これもマイペンライだ。このレースに参加するために、わざわざ各国からやって来たレーサーたちも、熱帯のペースに染まってしまって勝敗などあまり重要ではなくなっているらしい。多くのレーサーがレースを放棄して陸で遊んでいるのだ。 いったい何なんだ? このレースは? これがKing's Cupだ。 |