Phuket King's Cup 2000 (5)

by チャーリー岸田




part-5 「パトンビーチの夕暮れ」

 我々のチームは今回も男ばかりで参加した。多のチームがファミリーを連れて来ているのに比べて、やたらと男臭い。当然ホテルの部屋も男同士のツインルームだ。
 それに比べて欧米人は、男同士でツインルームに泊まる習慣がないようだ。ファミリーを連れて来ていない参加者は1人でツインルームに泊まっている。
 いやしかし、実は連中の多くが、空いたベッドに現地女性を泊めているのだ。
 フィリピンと同じだ。
 以前マニラのハイアット・リージェンシーに泊まったとき、欧米人ビジネスマンの多くが、その手の女性と同室していた。

 「出張の最中に、こいつら一体何を遊んでいるのだ?」
 と、思ったのだが、どうも彼らは遊びという意識ではないらしい。通訳兼ガイド、現地滞在中のパートナーとして雇っているようだ。我々日本人とは感覚が違うのだろう。

 カタビーチのホテルのフロントで、滞在中顔見知りになったフロントスタッフに声を掛けられた。  

 「あなた達は、あのような女性を雇わないの?」
 「いやだ!」
 「私の友達でそういうビジネスしている子が居るんだけど、皆んな良い子ばかりよ。皆ちゃんとした家庭のお嬢さんでインテリジェントな女性ばかりよ。」
 「君は何を言っているんだ? そういうのは日本では『やり手ババア』って言うんだぞ。」
 「えっ? 良く判らないけど、皆さんタイの女性はお嫌い?」
 「とにかくノーサンキューだ。」
 しかし、なんでインテリジェントな女性が、そんな商売しているんだ?
 それにこのフロントの女性も、妙に涼しげな顔でとんでもない話を持ちかけて来る。一体この国の感覚はどうなっているのだ?
 我々は決してモラリストではない。いや、むしろその逆だ。しかし、そういうのは苦手だ。何故ならば、このメンバーは揃いも揃って恐妻家なのだ。
 「折角のバカンスなんだから、恐い奥さんの居ない所で過ごしたい。」
 そう思って、一緒にプーケットに来たがる奥さん連中に、「プーケットは治安が悪い。」とか「ホテルのトイレが汚い。」とか、嘘八百を並べて男だけのツアーを実現したのだ。
 やっと実現した心静かなツアーに、どうしてそんな面倒な事をしたがるだろう? どうしてそんな面倒なものを連れて歩かなければならないのだ?

 その夜、我々はプーケット一の歓楽街、『プーケットの歌舞伎町』と言われる『パトンビーチ』に足を踏み入れた。
 俺はこの町が大嫌いだ。どうしてわざわざ南国リゾートに来て、新宿や渋谷みたいな街を歩かなければならないのだ?
 しかし今回初めてプーケットに来たメンバーも居ることだし、1回くらいは彼らを案内せざるを得ない。

 町はもの凄い人出だった。
 道の両側に並ぶオープンバーからは、今の日本ではFEN以外で聞くことのできない泥臭い昔風のハードロックががんがん鳴り響き、缶ビールを手にした白人連中が道に溢れている。喧しい音楽と群集のざわめきで、大声を出さなければ会話もできない。まるで昔のベトナム戦争中の米兵の休暇の光景だ。
 町に溢れているのは、その殆どがアメリカ人とオーストラリア人。彼らはヨーロッパ系の人々とは遊び方が違う。せっかくタイに来ているのだから、タイの音楽でも流して旅情に浸っていれば良いものを、この連中はどこに居ても自国式の遊び方しかできないようだ。
 また、この町の特徴は、もの凄い数のレディボーイ(オカマ)たち。何故か東南アジアでは、どこに行ってもレディボーイが多い。
 路上に置かれた屋外のお立ち台では、喧しい音楽に合わせてレディボーイたちが踊り狂う。
 面白い光景だが、こいつらの写真を撮るのには注意が必要だ。彼女たち(彼ら?)は、ストロボの光で写真を撮った人物を鋭く確認し、すぐにお立ち台を降りて追い駆けて来る。写真を撮ったことに対するチップを要求するのだ。
 走って逃げても追い付かれてしまう。元々この連中は男なので足は速いのだ。

 我々は混み合うオープンバーの一角に、何とか席を確保した。すると、俺たちの周りに大勢のレディボーイが集まって来る。
 俺は早く帰りたくなった。俺は人込みが嫌いだし、レディボーイはもっと嫌いだ。

 何人かのレディボーイが隣に座り妙な裏声で酒をねだるが、レディボーイなんぞに用はない。俺はそいつらを全て無視した。皆、悪態をついて席を去って行った。
 一人の女が隣の席に座った。
 この子もその手の商売の女には違いないが、レディボーイばかりのこの一帯では、本物の女と言うだけで新鮮に見える。なにしろレディボーイとは声が違う。もう奇妙な裏声は聞きたくない。

 「何かおごって。」
 「OK。好きなもの頼みな。」
 彼女は21歳だと言ったが、タイ人は一般に若く見える。日本の感覚で見ると女子高生のようだ。
 「君は本物の女かい?」
 「あたりまえじゃないのっ!」
 「はっはっは。」
 決して美人と言うわけではないが、感じの良い娘だった。しばらく会話を交わした語、やはり彼女は言った。
 「ねえ、私の部屋に行かない?」
 そら来た。しかし安易に着いて行く訳には行かない。たしかに、この喧騒の中でレディボーイに囲まれて酒を飲んでいるよりも、このねーちゃんと二人だけになった方が楽しいかも知れない。しかしこの国の歓楽街はHIVウィルスの巣窟であると言われている。ここでノコノコ着いて行く男は『サムライ』として賞賛されるだろう。俺にそんな勇気はない。
 しかし、はっきり誘いを断ったら彼女は別の客を探しに行ってしまうだろう。俺は曖昧な返事をして会話を引き伸ばした。
 そのとき、彼女の反対側に座った仲間が、彼女に声を掛けた。振り向いた彼女の後姿に、俺は何故か妙な違和感を覚えた。
 スレンダーな体型に長い手足。腰よりも肩幅の方が若干広い背中が、女にしては少々精悍な感じを与える。
 恐る恐る足元を見てみると・・・・・・俺の足よりでかいっ! 27cmはあるぞっ!
 お前は本当に女なのかぁ! うわああああああああ!!!

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