出光カップ2001

by チャーリー岸田

 9月30日、出光マリンズ三河御津マリーナ沖で出光カップが開催された。

 JUSTのヘルムスマンは横田。彼は5月のエリカカップに出られず、JUSTが小松ヘルムで優勝して以来、ヘルムスマンの座を脅かされる状況にあった。

 「ここで良い成績を残さなければ、俺の立場がない。」
 毎度のように、彼は熱く燃えていた。

 スタートは約10°の上スタート。しかし、本部船付近の集団に呑まれたらフレッシュ・ウィンドを逃がしてしまう。ここは上一を狙うべきではない。誰もがそう考えていた。

 本部船側からラインに入るが、少し早過ぎた。これでは下一のポジションになってしまう。

 「ちょっと早いな、あと一回転だ。」
 「おう。」
 「ベアだ! スタンバイ・ジャイブ!」
 「ちょっと待った! 横田ァ! どこまで落とすんだあ!」
 艇はどんどんスタートラインから離れて行く。これでは逆に間に合わない。ヘルムスマンの失策だ。
 結局集団から10数秒遅れてスタート。間抜けなレース展開となった。

 レース海面は20knotオーバーの強風。ここは森上の出番だ。
 「出番」と言っても、ただハイクアウトしているだけ。しかし120kg超の体重だけで森上は今日の最高殊勲選手となりつつあった。
 この日の乗員は11名。定員一杯の12名までは揃っていないが、IMSレーティングからは大きく超過した体重がある。このまま強風が続いてくれれば、我々にも十分勝ち目はある。
 風は序々に左に回り、ポートロングのコースとなった。後は走りとノーミステイクで行くことだけだ。
 俺たちは体重でブイブイ言わせながら、レーティングの低い艇を抜かして行った。しかし、同型MUMM36のフローレスは遥か前を行く。ここは何としても同型艇と絡んだ走りをしたいところだが、敵もさるものなかなか距離は縮まらない。
 最初の下マーク回航。バウの萩原が動き出した。

 「スピン回収しまっせ。」
 「何言ってるんだ! マークはまだまだじゃねえか! もう少し待て!」
 「俺たちそんな上手くないっすよ。」
 「まったくよう。」
 なし崩しにスピンが降ろされた。
 萩原は二人目の子供が生まれてから闘争心が落ちているのか?
 昨日の艇長会議にも、生れたばかりの赤ちゃんを抱いたまま出席していた。彼の心はファミリー方向に行ってしまったのか?
 「うわあ! 早くしろーっ! ああーっ! スピンが海に落ちるーっ!」
 実際にアクションを起こしてみると、動作に手間取ったのはアフターガードの側であった。実は萩原は、後の連中の手際を読んでいたのだ。アクション開始のタイミングは、早くも何ともなかったのだ。
 この日はトリマーの宮地が実家の稲刈のために欠席。我々のチームワークも、一人が抜けると厳しい状況にあったのだ。
 結局スピンが回収されたのは、マーク回航の3秒前であった。萩原の読みは完全に当たっていた。

 1下回航中、横を見ると、何と先行していたフローレスがスピントラブルで止まっているではないか! フローレスが対応に手間取っているうちに、我々は次のレグを上りはじめた。

 「やりい!」
 ヨットレースでは他人の不幸ほど嬉しいものはない。ヨットに乗っていると、どんどん性格が悪くなって行く。しかし、棚ボタで得た順位も実力のうちなのだ。

 2上のレグを走り切ると、次は最後のスピンラン。また早めのアクションでノーミテイクで行こう。作戦はこれしかない。
 そこで何と、2下回航では一番レーティングの高いカレラがトラブっているではないか! 大森が満面の笑みと共に叫んだ。

 「うひゃひゃひゃひゃあ! これだからヨットレースは辞められないぜ!」
 何度も言うが、他人の不幸は密の味。これがヨットレースだ。
   トラブルから復帰し序々に差を詰めて来るカレラを、JUSTは上手先行で押さえながら走った。もしかしたらこのままファーストホームも可能か?

 最後のポートタックのレグ。次のタッキングでアプローチだ。ここは下のカレラのタッキングを待って、押さえたままフィニッシュするしかない。

 「このまま行ったらオーバーセールだぞ。もうフィニッシュラインに入れるぞ。」
 「だけどカレラがタッキングしてない。」
 「でも、オーバーセールしたら、レーティングの低い艇にやられちゃうかもよ。」
 「う〜む。」
 迷った末、我々JUSTが先にタッキング。カレラはフレッシュ・ウィンドを取り戻した。
 「やべえ! ヘッダーだ! タッキングしなけりゃフィニッシュできないぞ!」
 最後のスターボのレグでカレラもタックを返し、JUSTの風上側やや後を追って来る。こちらがタッキングしたらミートか?
 「でも、レーティングの差は2分ある。このままでもこっちの勝ちだぜ。」
 ここで横田が叫んだ。
 「いやだあ! ファーストホームも取るんだあ!」
 そんな事を言っても、失格になってしまったら元も子もない。
 そしてフィニッシュ直前。
 「スタンバイ・タック!」
 「やばいぞ!」
 「タック!!」
 JUSTはポートタックでカレラの僅か先を通り、そのままフィニッシュとなった。
 JUSTがファーストホーム。そして結果は、レーサークラス9艇中優勝。全クラス17艇中の総合優勝。
 横田はエリカカップの雪辱を果たした。

 以上

On the WAVEのトップへ戻る
HOME