全日本ミドルボート選手権2003

by チャーリー岸田

 9月の3連休、我々は三河湾蒲郡沖の「全日本ミドルボート選手権」および「デニスコナー・カップ」に出場した。その日程は、

■9月13日

  •  全日本ミドルボート第1レース
  •  全日本ミドルボート第2レース
  •  全日本ミドルボート第3レース
■9月14日
  •  デニスコナー・カップ
  •  全日本ミドルボート第4レース
■9月15日
  •  全日本ミドルボート第5レース
  •  全日本ミドルボート第6レース
 合計7レースが全てブイ回りのソーセージ・コース。ロングやセミロングは1本もなしと言う過酷なものであった。
 通常の蒲郡でのJUSTの習慣は、「昼はレース、夜はカラオケ大宴会」と言うものであったが、今回の強風続きの毎日では、
  1.  レースが終わると、ヘロヘロになったまま最後の気力を振り絞って後片付け
  2.  帰り道、途中で晩飯を食ってフラフラになって宿に帰る
  3.  風呂に入って部屋に入ると気を失う
 〜と言うパターンになってしまい、蒲郡のネオン街には全く繰り出せなかった。

 1日目。俺たちは長年培ったチームワークを活かし、3レースともファースト・ホームを決めた。強風のレースでは、一人の卓越したタクティシャンよりも、チームワークがものを言うのだ。近年三河湾では若手チームの台頭が目覚しいが、中年チームを舐めてはいけない。まだまだ俺たちも行けるぜ。

 しかしこのとき、我々は自らの体力を過信していたのだ。もう若くはない。しかし妙な自信を付けた我々は歳を忘れていた。

 この日の夜、街に繰り出したのは、横田、岸田、三浦の3人。岸田と三浦は2日目からの参加である。まだ疲れは溜っていない。1日目のレース参加者でネオン街に繰り出したのは横田一人であった。

横田 「まだまだ俺も行けるぜ! 萩原なんかにゃ負けないぜ!」

 今回のレースは、若手の萩原が出張のため参加できず、40歳の横田が替わりにバウを努めていたのだ。いつもはアフターガードで言いたい事を言っている横田が、今回は後ろからギャーギャー言われる立場のバウになっていた。

 そして今日の彼は、本人にとって納得のできる仕事をしたらしい、しかし疲れは誰の目にも明らかだった。酒が回るに連れ、会話の内容が支離滅裂になっていた(いつものことだが)。

岸田 「今日はもう帰ろう。」
横田 「ええ〜っ? もうおわりれすかぁ〜。」
岸田 「横田も疲れてるじゃないか。」
横田 「まだまだ大丈夫れすよ〜〜。」

 そのまま岸田と三浦は、ヘロヘロの横田を宿まで連行した。

 そして2日め・・・
 初日に体重不足によるパワー不足を感じていた我々は、今日も観覧艇に乗ろうとしていた堀田オーナーにレース参加を申し入れた。

クルー 「オーナー! 今日はレースに参加して頂けませんか?」
オーナー 「いや、今日も私は観覧艇で・・・」
クルー 「体重が足りないんです。オーナーはヒール起しだけで結構です。あと8人居ますからクルーワークは大丈夫です。オーナーは乗っているだけで結構ですから。」
オーナー 「ウーム・・・」
クルー 「オーナー!」
クルー 「オーナー!」
クルー 「オーナー!」

 クルー一同は堀田オーナーを無理矢理JUSTに乗せ、合計9名でレースに臨んだ。
 『あと8人居るからクルーワークはバッチリです』などと言っていたものの、俺たちの身体のコンディションがそれを許さなかった。

 強風のデッキ上は、毎度のJUSTのカラーを色濃く反映し、テンテコ舞いの大騒ぎであった。

クルー 「うわあ! 下側のランナーが絡んだああああ! オーナー! すみませんがリリースお願いしますっ!!」

 残りの8名は、それぞれ自分のポジションに手一杯でトラブルの対応まで手が回らない。

クルー 「あああ! ジブシートがキンクしたあ! オーナー! お願いしますっ!」
クルー 「オーナー!」
クルー 「オーナー!」
クルー 「オーナー!」
オーナー 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
クルー 「何だか、やっとJUSTらしい雰囲気になって来たなあ。」
オーナー 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 ヨットレースの基本は、

  • Sail Fast
  • Sail Smart
  • No Mistake

 強いチームは速く走り、スマートなクルーワーク、そしてミスがない。下位を走るチームほどデッキ上で大混乱が展開されているものだ。

 しかし、JUSTにはそれが当てはまらない。毎度のようにデッキ上は大混乱となり、とても人には見せられない状況が続くのだが、それでもそこそこの順位で走ってしまうところが我々の特徴だ。

 結局この日、我々はまる一日、オーナーをコキ使い続けた。艇を降りるとき、堀田オーナーの足はフラついていた。

オーナー 「やっぱり明日は観覧艇に乗せてもらいます。」

 誰もこれ以上、オーナーを引き止めることはできなかった。
 この日の夜、横田を除く全員が夜9時に就寝。横田は一人で宿のロビーから全員の部屋に電話を掛け続けた。

横田 「どうしたんれすかぁ〜? 飲みに行かないんれすかぁ〜?」
    誰も横田の誘いに応じない。そもそも、そう言う横田自身がもうヘロヘロである。
 彼はそのまま宿のロビーで気を失った。

 3日目。この日は昨日にも増してデッキ上は混乱を極めていた。

「おーい! 何やってんだあ! 早くシート引けーっ!!!」
「何引いてるんだあああああ! そっちじゃない! 反対側のシートだあああああ!!!」
「うわあ! ジブシートがキンクしたあ!!」
「あああ! ランナーが絡まったあああ!!」
「ウィンチが飛んだあ! 早く部品を拾えーっ!」
「おっと、スピンポールが壊れたああ! どうしよう?」
「壊れちゃいない! 良く見ろっ!」
 タックの度にトリマーが暴れ回り、ジャイブの度にバウマンがすっ転ぶ。そして今回は、トラブルに対処するオーナーは乗っていないのだ。

 もう少しスマートなクルーワークができれば成績の向上が見込めるのだが、このチームのカラーはなかなか変わりそうもない。我々はこのやり方で今後もずーっとやって行くしかないのだろう。
 観覧艇ではオーナーが嬉しそうにこちらを観ている、おそらく (やはり今日は乗らないで良かった。) と、思っているのだろう。

 結果は、「全日本ミドルボート」と「デニスコナー・カップ」の計7レース中、全てのレースでファースト・ホーム(着順1位)。リコールにより再スタートしたレースまで、フィニッシュラインではトップに踊り出た。
 「全日本ミドルボート」の修正結果は、関西から参加した強豪「SANTA」抑えられ、第2位の準優勝。「デニスコナー・カップ」では優勝を決めた。
 レース後、身体中に打撲傷を作り筋肉痛に苛まれながら、横田は語った。

横田 「萩原は偉大だ。やっぱり若いやつには適わねえよ。いてててて・・・。」

 完

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