三島カップ(vol.2)byチャーリー岸田
- 祭り - 三島カップのパーティー会場は、硫黄島公民館前の広場。ステージの後には遥か上空までの崖がそびえ立ち、振り返れば硫黄を吹き出す火山。まるでゴジラやモスラが生れた島の土人の集会所だ。岩の陰からティラノザウルスが顔を出しても全く違和感がない。
パーティー料理は、お約束のバーベキューは当然として、島の青年団が獲って来た魚介類。そしてその魚介類を島の婦人会が総出で料理。ここで食べた硫黄島式の薩摩揚げは特筆に価する。さつま揚げがこんなに美味いものだとは思ってもみなかった。 パーティーは表彰式から始まった。入賞したチームに与えられるのは、島の孔雀の羽根で作った冠と副賞のビールだけ。このレースでは順位は重要な問題ではない。
「お名前は?」会場から盛大な拍手。 ヨット乗り向けの特賞は、今年生れたばかりの子牛。名前は[小春]。 当選者は当った子牛をヨットに乗せて連れ帰っても良いのだが、それでは何かと面倒なので、1年間島の農家に預けて、1年後にこの牛が市場で競り落とされたときに、その代金を貰う方法も選択できる。 ステージには当選者とともに、この牛を育てる農家のおっさんも登場。 「小春はオラが責任持って育てるだ! 楽しみにしてろや!」表彰式と抽選が終ると、次は三島村出身の唯一の芸能人。[硫黄島の歌姫]こと[苑とも子]の出番。 歌姫の登場を告げたのはステージ上の村長。この名物村長は、ステージ上でテンションが上がりっぱなし。せっかく雇ったプロの司会者に喋る隙を与えない。 歌姫はトロピカルな衣装で登場。激しい振付けで歌い始める。そこに突然の激しいスコール。パーティー参加者は料理のテントに避難。 しかし歌姫は挫けない。島の娘にとって、スコールなんぞ物の数ではないらしい。 滝のように流れ落ちる雨は石の舞台に跳ね返り、歌姫の身長よりも高く舞い上がる。スポットライトが飛沫を照らし、散乱した光がオレンジ色の崖に反射する。 豪雨の音に負けじと歌姫の声と振付は一層の激しさを増す。鬼気迫る光景だ。 歌姫が叫ぶ。「ヘイ!・カモン!!」 ニュージーランドから来た遠来艇の老夫婦が、雨宿りのテントを出てステージに向かう。 おっと、これでいいのか? この祭りを若い娘と外国の老人だけに任せて良いものか? これでは俺たちの血が納まらない。 ヨット乗りたちは次々とステージに駈け上がり、豪雨の中で踊り始める。 やがてスコールも去り、真打登場。
ステージ上には、ママディさんを中心とした島のジャンベ楽団。そして3つの島の小中学生の全生徒18人が、マラカスやタンバリンなどのパーカッションを手に、ステージの最前列に並ぶ。
この日の泊りは島の公民館。公民館内の体育館や図書館など、全ての施設を開放して、ヨットに泊り切れない人員や黒島や竹島の島民を収容する。セキュリティなど皆無に等しいが、元々この島には盗まれて困る物など最初から無い。 翌朝は、日の出とともにレース艇が次々と島を離れる。早く帰らなければ迫り来る台風の直撃を食らってしまう。
漁港の岸壁には島民が列を成す。 「来年も来てけろや〜!」やがて硫黄島は水平線に消え、硫黄の雲だけが、いつまでも空に浮かんでいた。 おわり
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