byチャーリー岸田
スタート時刻は17日、土曜日の午前10時。風や波のコンディションが良くて、順調な走りができれば、翌日曜日(18日)の早朝未明にはフィニッシュできる。そのため、積み込んだ食料は2食分。土曜日の昼と夜の分だ。
スタート後、各艇はレーティングどおりの順位で走り始めた。
トップを走る[SummerBoy]が、進路を大きく南に取り始めた。彼らの作戦は、午後から吹いて来るはずの夏の南風をいち早く拾って、後続艇に差を付ける方針のようだ。
そしてその日の夕方。遠州灘も終わりに近づく頃。[SummerBoy]は元のコースに戻って来た。どうやら南風は来なかったようだ。遠回りをした分だけ俺たちとの差は縮まっている。
やがて日曜の朝が明けた。もともと微風だった風がどんどん落ちて来る。
クルーに焦りが見え始めた頃、船の周りに鮫の群れが登場。 「おっ! サメだ!」この微風下で、サメを見て喜んでいる場合ではない。 「おっ! イルカだっ!」今度はイルカが登場。バンドウイルカの群れだ。 小型のスナメリしか居ない三河湾では、バンドウイルカを見る機会はない。 外洋経験の少ない若手クルーには、バンドウイルカは初めてだ。 「で・でかい! あれはクジラじゃないのか?」本来であれば走りに集中しなければならない状況であるが、サメやイルカには敵わない。ここでとどめの一撃が登場。 「おっ!!! マンボウだあ!!!」もう、「船を揺らすな。」どころではない。全員が上側に行ってマンボウに夢中。 しかし腹が減った。朝から何も食べていないし、この炎天下で体力の消耗も激しい。
「トップ艇[SummerBoy]がただいまフィニッシュ。タイムは〜」これはまずい。トップ艇はこの凪につかまらずに、順調に走り抜けたようだ。パソコンでハンディキャップを計算。 「あと2時間以内にフィニッシュできなければ[SummerBoy]に負けるぞ!」しかし風は吹いて来ない。フィニッシュの初島は、まだまだ遠い。 2番目を走る[朝鳥]と、3番目の俺たちが凪につかまって四苦八苦している頃。後の水平線から後続の小型艇が次々と現れた。 「まずい! あの連中を振り切らなければ、どんどん順位が下がってしまう。」しかし風は後から来る。結局フィニッシュしたのは、陽も暮れた午後の19時半。もう俺達の頭にあるのは順位やレースの状況ではない。とにかく腹が減った。 船を桟橋に舫うや否や、陸番担当が桟橋に用意した食料に貪り付く。 「ああ、食った食った。もう満足だあ。」35時間に及ぶ空腹との戦いは終わった。腹が減っては戦ができぬ。レースに勝つためには、まず腹いっぱい食べることだ。
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