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JUSTな披露宴
by チャーリー岸田

 ジャストの若手クルー、下ちゃんが結婚する事になり、披露宴でジャストチームが余興をやることになった。大体、それだけでも「やめたほうがいい」と誰もが思う話なのだが、よりによってパフォーマンスリーダーに岸田氏に指名がかかった。張り切る岸田氏。しかし、気になるのは下ちゃんがジャストに来る前に所属していた「パラフレニアン」の連中の存在だ。奴らも余興を披露するようだが、一体どんな芸を披露しようというのだ?海の上は当然として、陸の上でも負けるわけにはいかない。かくして、ヨット野郎の意地を賭けた戦いが始まった・・・・・・・。


 昨日、五十嵐キャプテン、横田、岸田の3人が名古屋に集まり下ちゃんウェディングの打合せをしました。色々検討した結果、次第に明らかになって来たJustの真実・・・・・・

『俺たちは絶対にパラフレに勝てない』

 長身で二枚目のパラフレの若者たちが、ビシッとタキシードに身を固めてズラリと並んだ姿。この時点で、もうJustには決して超えられないハードルが出来上がっている。この姿を見ただけで、何もしないうちに、既に観客の好感を集めてしまうだろう。何もしなくても、ただ居るだけで『爽やかなスポーツマン』『凛々しい海の男たち』をアピールできてしまう。

 それに比べてJustの場合、ズラリと並んだ瞬間、何もしないうちから・・・・『暑苦しい』『単なる酔っぱらいの中年』『お下品』のイメージを発散している。このマイナスイメージを払拭するだけの芸は、生半可なものでは不可能だ。おまけにショーケン、イトーの若手を欠き、キャプテンが最年少末端クルーと言う面子では、どこにも爽やかさのかけらも無い。

「てやんでぃ。ヨット経験なら俺たちの方が上だぜ。」
「レースだって俺たちの方が速いんだぜい。」

 なんて思ってみても、陸の上では何も出来ない。いや、むしろ、そんな気持ちをおくびにでも出したら。若大将映画の城北大学、宇宙戦艦ヤマトのデスラー総統、007のスペクター。正義のパラフレに対する老獪な悪役Justのイメージを観客に植えつけてしまうだけだろう。

 ・・・・・・この事実に気付いたとき、横田はすかさず電話を取り出した。

「あっもしもし、下ちゃん? 披露宴の話だけど、俺たちの出番はパラフレよりも前にしてくれよな。パラフレの後じゃ出来ない事情があるんだ。それにJustのすぐ次にパラフレを持って来るのも困るんだ。Justは余興の一番最初。パラフレは一番最後でな。よろしくっ。」

 来週23日、レース後のパーティーで余興の練習をします。披露宴に参列できない連中も、練習には参加してくれよな。


 というわけで、結婚披露宴におけるジャストチームの余興の練習が、日産マリーナの芝生広場にて行われた。しかし、岸田氏は銀行のシステム室で缶詰状態だ。横田氏指導で練習が続くが、イマイチ盛り上がらない。

「いやいやいや、当日は岸田さんが盛り上げてくれますよ!なにせ、あの人はすごいですからね!!」

『パラフレがジャストを見る目も期待に満ちた物であるようです。』だって?

 まずいじゃねえか。俺たちの芸なんて単なる酔っぱらい中年の踊り。そんなに期待させたら、後の落胆が恐いぞ。
どうも横田は俺の話を大袈裟にしているようで、岸田については誤解があります。


 披露宴でウエディングケーキを倒したのは俺ではありません。あれはMさんです。
 あれは披露宴が始まってすぐのことでした。乾杯の音頭が終わった直後、これから主賓の挨拶だのなんだのが続くと言うのに、もう既に泥酔状態で会場に現れたMさんは、披露宴の段取りを全て無視。いきなりボーイからシャンパンの瓶をひったくると、高砂の新郎めがけて走りだしたんです。一番乗りで新郎に酒を注ぐつもりでした。ところが泥酔状態のMさんは足元がよろけ、思わず左腕でウエディングケーキにウエスタンラリアートを食らわせてしまったんです。ケーキの倒れた周辺は悲惨な状態でした。しかしもっと悲惨なのは司会者。し−んと静まり返ってしまった会場の中で、

「ははは、ははは。元気の良いお友達ですねえ。」

などと必死にフォローを入れていましたが、顔が引きつっていました。ケーキカットの後ならまだ良かったんだけどね。


 それと、新郎新婦の代わりに登場したのはTさんです、俺ではありません。いつものように披露宴に遅刻して来たTさんは、会場の外でボーイに聞きました。

Tさん 「もう始まってるのか?」
ボーイ 「いえ、これから始まるところです。今すぐこのドアから入って下さい。」

そのとき会場の中では・・・・

司会者 「皆様大変長らくお待たせしました。さあいよいよ新郎新婦の登場です。盛大な拍手を持ってお迎え下さーい!」

 参列者全員の拍手とともにウエディングマーチが鳴らされ、会場の照明は落とされ中央の扉にスポットライトが当たる。そこで会場内のボーイがうやうやしくドアを開けると・・・・一人でトボトボと入って来たのはTさんでした。Tさんは状況が良く理解できていないようで、不思議そうな顔をしたまま少しも慌てずに、あらかじめ教えられた自分の席に向かって歩き続けました。参列者もこの状況にどう対処して良いのか分からず、とりあえず拍手を続けたまま困惑の表情を浮かべていました。おまけにスポットライトまでTさんの後を追ってしまいました。この時も一番困っていたのは司会者。Tさんが席に着き、続いて新郎新婦が登場するまで、

「さあぁて、いよいよこれから新郎新婦の登場でーす。」

などと言い続けていけれど、全然間が持てないようでした。しかしこれは、半分は式場の責任です。


 しかし、例の『メインキャンドルぶっ倒し事件』だけは岸田の仕業です。しかしあれは単なる事故なんです。わざとやったわけではありません。

 普通、キャンドルなんてものはメインテーブルの上に置いてあるのに、そこの式場では、ばかでかい陶器の燭台があって床に置いてあったんです。そして俺たちの出番のときに、誤って蹴飛ばしてしまったんです。単なる事故なんです。当然陶器の燭台は、ガッシャーン! と、大きな音をたてて割れてしまいました。しかしもっと問題なのは、溶けた蝋が飛び散ってしまったことです。前の方の席に座っていた新婦の友達の顔にかかってしまって大騒ぎ。その子は蝋の飛び散ったSMみたいな顔をして洗面所まで走って行ってしまいました。気まずかったなあ。しかしあれは単なる事故なんです。余興の一部ではありません。


後日談

 下ちゃん披露宴は予定通り、名古屋キャッスルホテルにて行われた。地元の有力者の令嬢と式を挙げた関係か、披露宴には、市長や地元財界のお偉方が列席。総勢120人の大披露宴となった。

 その中で、岸田氏、横田氏の爆裂コンビは、ほとんど座る暇もないくらい、ステージに登場し(他の余興にも乱入して、踊りまくってたそうだ)、主役の親族からは

「あの人たち、面白いわね。プロの芸人なの?」

と声が上がったらしい。

 それで、

「もう、出番は無いだろう。これでゆっくり飯が食えるぞ」

と、くつろいでいた2人。

司会者 「さあ、ここで新郎の切なる希望で、ジャストの横田さん、岸田さんに、山本リンダの『狙い打ち』を歌ってもらいましょう」
横田・岸田 「なにー、そんなの聞いてないぞ!

といいつつ、2人で思いっきり腰をふって踊ってたらしい(市長の前で)。

 実は、下ちゃんは、ここまで来るまでに結納だの家具を入れる儀式(ドラマで有名になった、荷物を運ぶトラックはバックしてはいけないっていうあれです。狭い道では祝儀を渡して相手の車に下がってもらったりするそうだ)だの嫁さんを迎えに行く儀式(ここで盛大に菓子まきが行われる)だの、「名古屋結婚式フルコース」をやらされて、ストレスがピークに達しており、披露宴で全ての鬱憤をはらそうと考えていた。岸田氏、横田氏コンビが大暴れする姿をみて、下ちゃんは本当に大喜び。新婦は顔がひきつってた。以後、ジャストの悪名が高まったのは言うまでもない。

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