ベトナム紀行 チャーリー岸田
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その2 - 市場
そして我々はホーチミン市内の市場に乗り込んだ。
ここは基本的に小売店の人々が仕入を行う場所なので外国語が通じない。街の小売店であれば英語を話す店員が居たり、時にはカタコトの日本語を話す店員が居る場合もある。しかし問屋は地元の業者相手の商売が基本なので外国語を話す必要がないのだ。この点が今回同行した小規模業者のメリットになる。英語が通じる場所であれば、大手の業者が入り込んで来てスケールメリットを生かして零細業者を駆逐してしまうだろう。
発音が難しいと言われている中国語の場合、『四声』と言って4種類の発音がある。この発音を使い分けないと絶対に通じない。 ここで社長は電卓を手に問屋と交渉を始めた。
身振り手振りである。お金や数量の話であれば身振り手振りと電卓で何とかなる。しかし、 「このデザインで、色をあれと同じで〜。」とか、
「もう少し薄い色で染めて欲しいのだが〜。」〜などと言う複雑な話になると大変な騒ぎである。『指差し会話帳』を手に汗だくになって交渉を続けている。また価格の交渉も楽ではない。ベトナム人には『定価』と言う概念が無く、全てが交渉で決まってしまうのだ。なにしろ相手は戦争でアメリカに勝った唯一の国の人々である。交渉も並大抵のものではない。 そんな社長を尻目に、岸田は市場の中を見物して歩いていた。広大な市場には日本のアジア雑貨店には置いていない数多くの珍しい物が溢れているのだ。
なるほど。これだけの商品が溢れていながら、輸入して商売になるのはその中の一部だけ。プロの世界はなかなか難しいものだ。個人的にお土産として買う分には問題ないのだが・・・・・・。
なるほど。自分のセンスで良いと思うものが必ずしも売れるとは限らない。エンドユーザの趣味や嗜好を理解していないと商売はできないようだ。そこが素人とプロの商売人の違いなのだろう。
その製品は複雑な手仕事の刺繍の入った製品である。今から作っても間に合うはずがない。
実はこの問屋は、家内工業の製造者の家族がやっている場合が多い。家族一同が自宅で製造し、その家族の奥さんや娘さんが問屋で製品を売っているのだ。『明日までに100個』などと言われた場合、その家族は今夜徹夜作業になるのかも知れない。それでもベトナム人は商機を逃さないのだ。凄い連中だ。 と、そんな熱気溢れる市場の中に、卒業旅行でやって来たような日本の女子大生の集団がちらほら見える。この連中もプロの業者に混ざって電卓を片手に、現地の問屋を相手に丁々発止の交渉を続けている。また別の店では、団体旅行でやって来た日本のオバチャンの集団が、言葉も判らないのに値切り倒し、相手の業者を圧倒している。なんと凄い連中だ。日本の女性もなかなかやるではないか。東南アジアの女性は逞しいが、日本の女もなかなかのものだ。 つづく |