ベトナム紀行 チャーリー岸田
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その4 - 続・ベトナム料理 市場の中には民芸品や日用品の店だけでなく、食材を売っている店や食堂もある。問屋の店番をしているオバチャンたちの多くは、このような食堂で食べ物を買って来て、店番をしながら昼飯を食べている。昼時になると市場の中は香ばしい匂いで満たされる。 そこでオバチャンたちの食べているものは、フォーなどの麺類や炒め物など。そしてその半数ほどが、ベトナム料理に米ではなくフランスパンを添えているのだ。何だこりゃ? 米麺をすすりながらフランスパンをかじっているアジアのオバチャン。奇妙な組み合わせではないか。これがこの国の特徴でもある。妙なところで旧宗主国のフランスの影響が出ているのだ。旅行ガイドにも「ベトナムのフランスパンは美味しい」と、書いてあるのだが、違和感がある。 この日も昼飯後、また岸田は一人で街を歩いていた。ホーチミン市はフランス風の建物が多いだけでなく、街にはパン屋が何軒もあり、ショーウィンドウには凝ったデザインのフランスパンが並んでいる。 「とりあえず1個くらい食べてみるか。」1軒のパン屋に入った。この店は最近日本でも見掛けるタイプの、パン屋と喫茶店が合体したようなお洒落な店であった。店頭で選んだパンを店の中で食べられる仕組になっているのだ。
席に着いてガラス越しに街を眺めていたのだが、注文したパンがなかなか出て来ない。何をやっているのだろう?
『今やっています』ってのは何だ? 目の前のケースの中から持って来るだけではないか。どうして10分待っても出て来ないのだ? 恐ろしく怠慢なベトナム人も居るのだろうか。
しかし『番茶も出鼻』と言うではないか。焼きたてであれば安物のパンでも美味いだろう。本当に美味いパンなのかどうかは判らない。
その夜、晩飯後にホテルに向かっていると『アイスクリーム・レストラン』の看板が見えた。窓から中を覗いてみると、フランス人観光客が多いようだ。丁度歩き疲れて甘いものが欲しかったところなので、とりあえず入ってみた。店内はなかなかお洒落な西洋風のインテリアである。そこでフランス人のカップルなどが「ジュテーム」などと会話を交わしている。しかし現地人も多い。アイスクリーム屋だと言うのに、何故か仕事帰りと思われる中年のオッサンのグループが多かった。皆小奇麗な服装をしたビジネスマンと思われる連中である。現地の相場では高級な店なので、おそらくこの連中はエリートビジネスマンなのだろう。そんな連中が皆でフルーツパフェを食べながら真面目な顔でビジネスの話など(おそらく)をしているのだ。
フルーツの味が日本とは違う。ビニールハウスで育てられたひ弱な果物でもなく、貨物船で何日も揺られて来た輸入物でもなく、この熱帯の太陽を浴びて育った獲れたての果物である。味の濃さが違う。そしてアイスクリーム。これもなかなかのものだ。欧米人が作ったような単なる砂糖の塊とは雲泥の差だ。それはアジアならではの繊細な味に満ちていた。これは本物だ。ベトナム人は西洋の味も完全に自分のものにして素晴らしいものにしている。昼に食べたフランスパンも本物だろう。そして岸田はベトナムのオヤジたちの横で甘いパフェを食べ続けた。 つづく |