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サプライズド フィリピナス
by チャーリー岸田
 
その5 - フィリピンプロジェクト

 最終日、帰国を目前に控えた我々は、ライアンと今回の旅のメインの目的であるビジネスの話を始めた。本来であればこの打合せを先に行うべきであったのだが、毎日のどんちゃん騒ぎと不意の養子縁組などのサプライズが重なって、肝心の目的であるビジネスの話が出来ずに居たのだ。

 そのビジネスとは「パーティの仕出屋」。話は今年の3月に遡る。このとき短期間の出稼ぎ(観光ビザの不法就労)で日本に来ていたライアンが、都内の居酒屋で夢を語り始めたのだ。

ライアン 「今、フィリピンではパーティの仕出屋が流行っているんだ。我々もそれをやりたいんだ。僕は機械の扱いが得意だからカラオケやPAの操作ができるし、ラニー姉さんは料理が得意だ。ベスの旦那のアーネルはパーティの司会ができるし、車の運転免許を持っている家族も何人か居る。家族で力を併せれば何とかやって行けると思うんだ。」

 画期的な発想である。この一族に限らず、多くのフィリピーノは、

 『外国に出稼ぎしなけりゃ楽な生活はできない。フィリピン国内で働いてもロクな収入は期待できない。』

 〜と、考えている。

 もちろん、日本に限らず外国人労働者を無限に受け入れる国などそうあるはずもなく、フィリピンでは海外への出稼ぎは非常な狭き門である。出稼ぎに出られない人々は、食うために仕方なく国内で働いているが、この国の人々は、家族の1人が出稼ぎに出れば残りの家族は例外なく今までの仕事を辞めてしまう。元々勤勉とは無縁の国民性を持ち、貨幣価値に差がある国での出稼ぎの味を占めた連中が、国内で真面目にコツコツ働く訳がない。この一族も、今まで出稼ぎ家族の仕送りだけで生活していたのだが、その彼らから国内で働きたいと言う発想が出た事はサプライズである。

ライアン 「フィリピンで働くことができれば、姉さんたちもフィリピンに帰って来てファミリーが一緒に生活することができるんだ。だけど、それには資材が必要なんだ。」

 ライアンが計画している「パーティの仕出屋」とは、先日のマリアのバースディ・パーティで使ったような業者である。依頼された場所にテーブルを並べ料理を出し、パーティの進行も受け持つ。最近この国ではそのような業者が増えているのだそうだ。おそらくこの国の現状は昭和の日本と似たようなものなのであろう。

 その昔は日本でも、冠婚葬祭や祝い事の宴会などは自宅で行うことが普通であった。しかし社会構造の変革により、今では結婚式などはホテルや専門の式場で行うことが一般的だ。フィリピンでも、今までは宴会と言えばホームパーティしか無かったのだが、最近では仕出屋を使うケースが増えているらしい。

 この一族にはそのビジネスを行える能力があるようだ。カラオケ機器の操作や車の運転などは、先進国に住む我々から見れば「そんな事誰にでも出来るだろう?」と、思ってしまうのだが、あまり機械に馴染みのないこの国ではそれだけで食って行ける特殊技能である。フィリピンでは運転手のステータスは高いのだ。

 そこで問題になるのが元手。仕出屋を行うための資材を買う金がない。そこでライアンは弊社に投資を求めて来たのだ。

PA係サム

 今回の同窓会やバースディ・パーティは、彼らの我々に対するデモンストレーションでもあった訳だ。今回は料理や会場設営は別の業者に依頼したが、その他の進行は全てこの一族で運営した。我々日本人に対して彼らがその仕事をやって行けることをアピールして居た訳だ。今まで皆から怠け者と見られて来たベスの旦那アーネルも、今回だけは気合を入れて司会者としておもいっきりパーティを盛り上げて居た。

司会者アーネル
社長 「よし判った。メトロバンクに10万ペソ(20万円)振り込もう。だけどこれはビジネスだ。この金で資材を買って商売を始めたら、売上から経費を引いた粗利の20%をこちらにペイバックしてくれ。岸ちゃん、それで良いか?」

 もちろん岸田に異論のあるはずもない。天性の怠け者だと思っていたこの連中が、これだけのやる気を見せているんだ。ビジネスとしては利が薄いが、投資する価値はあるだろう。今のところ我々の会社は順調に利益が上がっている。この程度の投資であれば問題ない。

岸田 「OK。だけど一つ条件がある。必ず利益を出せとは言わないけど、経費の明細だけは必ず明らかにしておいてくれ。『何に使ったか覚えていないけど、お金が無くなってしまった』なんてことだけは無いようにしてくれよな。」
ライアン 「それは大丈夫。僕の奥さんは銀行員だからお金の計算は大丈夫だ。」

 そして新しいプロジェクトが始まる。従来の日本の企業でも、人件費の安いフィリピンで物を作るビジネスを行ってはいたが、フィリピンを市場としたビジネスは少ないだろう。これはこのフィリピンの一族だけでなく、我々の会社にとっても海外進出の一歩である。

 しかし・・・・・・。

 リンダの同窓会は、ホテルに100人を招いて行ったパーティが総額6万円弱。マリアのバースディ・パーティは、自宅の庭での160人の大騒ぎで総額4万円。そのような低い相場の市場で、経費を引いた粗利の20%では、投資が回収できるのは何時になることだろう?



おわり


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