藪の中(ショーケン編)
by ショーケン

1996年。KENWOODに行った熱い夏も終わり、秋も終わろうとしていた、ある日の話である。
いよいよハワイからJUST SEVENが帰ってきた。横浜港に下ろされ、三河湾へ廻航することになった。
廻航日程を横田氏から聞き、俺は車に乗って集合場所へ向った。
予定としては、金曜日の深夜1時に日産マリーナに集合し、木塚氏の車で横浜へ向う。明け方、横浜に到着し、すぐ廻航、翌日の昼過ぎには三河湾に入る、というもの。いつもの廻航と変わらない。
俺が住んでいた豊橋から、日産マリーナのある幡豆町までは車で1時間20分程度。夜中なら交通量が少ないので、1時間かからないだろう。12時頃家を出て、順調に日産マリーナへ向う。
金曜夜中の蒲郡近辺の道路はほとんど車が通っていない。その日も俺の車1台だけが、幡豆方面に向かっていた。

すると、後ろに1台、車が現れた。俺の後ろについたが、抜いていく様子もない。
えーい、うっとーしいな。抜くなら抜けよなー。
後ろの車は、小型の車。あまり見たことない形である。外車だろうか?
しかし、もうすぐ幡豆方面への曲がり角。ここでお別れだろう。
曲がったら、後ろの車も曲がってついて来た。

「!?・・・・・」
と一瞬思ったが、偶然だろう。
車の通りの少ない田舎道とは言え、俺だってこうして走っているのだ。後ろの車だってたまたま同じ道を走っているだけなのに違いない。
が、内心気味が悪かった。駅のトイレでガラガラなのに、わざわざ隣で小便される、そんな気分だ。時間も夜中の1時前だし。
もうすぐコンビニがあるので、そこで熱いコーヒーでも買うか。と思ったら、前の信号が赤になった。
信号の前で停車すると、後ろの車が俺の車の右側、つまり反対車線に入り込み、隣で停車するではないか!

なんだ!こいつは?!

焦って隣に止まった車を見ると、左ハンドル車である。髪の毛の短い、サングラスのような眼鏡をかけた人相の悪い男がこちらを睨んでる。うへー、ヤバイじゃん。何なんだよー。
しかし、ここでビビッていてはいけない。窓を開けて、相手を睨みつつ何か言おうとすると、相手が先に口を開いた。

「すみませーん、JUSTの人ですよね?」
「・・そうですけど・・」
「あのうー。今回回航に乗せてもらうことになっている××ですがー。」
「・・・んな話聞いてませんけど・・」(誰だ?こいつは??)
「すみませんが、マリーナまで案内してもらえませんか?」
「・・・ちょっと、そこのコンビニ寄ってきますよ」
と言い終わらないうちに信号が青に変わったので、俺は車を発車させた。
どうやら、俺に因縁をつけようって訳ではないようで一安心。しかし、何者なのだろう?名前がよく聞こえなかったな。
俺がJUSTのクルーである事がわかったのは、車の後ろにJUSTのステッカーを貼っていたからだろう。と言うことは、俺の後を追いかけてきたと言う事だ。
コンビニの駐車場に車を止めると、その男はマシンガンのように話始めた。
「はじめましてー。私、横田君の友人で岸田っていいます。今日は横田君の紹介で、JUSTの廻航に乗ることになりました。」
「あ、そうなんですか」(聞いてないっすよー、横田さんー)
「いやー、焦りましたよー。横田の説明じゃ、全然道わかんなくてー。あ、お名前は何て言うんですかあ?」
「あ、萩原といいます」
「よろしくお願いしますー。私、岸田と言いますー」
これがチャーリー岸田氏と俺の、いや、JUSTとの出会いである。
この先の廻航で、岸田氏はその存在感を徹底的にアピールすることになるのだが、俺にとってはこれだけで充分だった。
やれやれ。
     
次回(岸田編)に続く。

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