藪の中(岸田編)
by チャーリー岸田

 岸田が東京に居た頃、学生時代の後輩である横田は、出張や友人の結婚式などで東京に出て来るたびに、Team Justの自慢話をしていた。

「Justは三河湾で一番速いんですよ。三河湾のレースでは毎回必ず優勝しているんですよ。ライバルが居ないからつまらないんですよ。」
岸田は横田を全面的に信頼しているので、一度そのつわものチームを見てみたいと思った。
そして岸田が名古屋に転勤して来たとき、JustはハワイのKENWOOD-CUPに遠征中だった。
そうか、三河湾にはライバルが居ないから、海外遠征に行くしかないのか。
KENWOOD-CUPが終わると、横田から電話が掛かって来た。
「岸田さん、Justに乗りませんか?」
「ええーっ! 俺がそんな凄い船に乗れるのか?」
「バッチリっすよ!」
 しかし船はまだハワイから戻って来ていない。岸田はJustに乗れる日を楽しみに待っていた。
「岸田さん! Justが帰って来ます! 船積みで来週横浜港に着いて、週末に三河湾まで回航です。」
そこで岸田はその回航に乗せてもらうことになった。
しかし横田は、KENWOOD-CUPで休みを取り過ぎてしまったために、週末も出勤になると言う。
このとき、「実は横田はゴルフに行っていた。」などと言う噂もあるが、岸田は横田を全面的に信頼しているので、そんな噂は嘘だと思う。
「金曜の夜12時に日産マリーナ集合です。Justの連中には岸田さんが来ることをちゃんと伝えてありますからバッチリです。」
「ところで、その日産マリーナの詳しい場所を教えてくれ。」
「すぐに解りますよ。そんなに難しい場所じゃありませんから。」
まあそうだろう、関東のシーボニアだって葉山マリーナだって、近くの交差点には案内板が出ている。日産マリーナだって行けばすぐに解るだろう。

ところが全然解らなかった。

幡豆町の入り組んだ道に迷い、グルグル回っているうちに、集合時刻の12時をとっくに過ぎてしまった。
やばい、初回から時間に遅れるなんて、つわものチームではありえないことだろう。
これは顰蹙を買ってしまうぞ。参ったなあ。
ふと気が付くと、前を走っているワゴン車の後に「JUST-SEVEN」のシール。
おっ! あれはJustのメンバーの車に違いない。
乱暴に飛ばしまくるワゴン車を、岸田は必死で追いかけた。
ワゴン車が赤信号で止まったとき、岸田は自分の車をワゴン車の横に付け、運転席の窓ガラスを叩いた。

「すみませーん。Justの人ですかぁ?」
「なんや。ワレー?」
こわーい! 関西人だあ!
たしかに、こんなほとんど車の走っていない深夜の裏通りでちゃんと信号を守るなんて、運転している人が名古屋出身者でないことは容易に想像できた。
しかし、それがもっと恐い関西系だとは思わなかった。
「あのうー。今回回航に乗せてもらうことになっている岸田ですがー。」
「そないな話、聞いてへんで。」
 岸田は横田を全面的に信頼しているので、彼が仲間に岸田が来ることを連絡していないなんてことは考えられない。  きっとこの恐い関西系のおにいさんが、(東京のやつなんて来んでもええわ。ボケーッ!)などと思って聞き流していたのだろう。
「ちぃとコンビニ寄ってくで。」
「はいっ。」
コンビニの駐車場に車を停め、我々二人は車を降りた。
するとその関西人の恐いおにいさんの服装は、まるで体育学部の学生のような上下ジャージだった。
そうだ、俺は聞いたことがある。
関西ではジーパンなどを履いているとナメられるので、恐いおにいさん達は皆、上下ジャージでキメているのだ。
そしてこのようにも聞いた。
「関西にはヤクザと漫才師しか住んでいない。」
このおにいさんは、漫才師には見えないから、するってえと、その筋の関係者か?
そして「その筋系」のおにいさんは、そのコンビニで菓子パンを買うと、のんびりと食べ出した。
「あのー。もう集合時間過ぎているんですけど。急がなくて良いんですか?」
「集合は1時や。」
 岸田は横田を全面的に信頼しているので、横田が集合時刻を間違えるわけは無い。 きっとこのおにいさんは、(集合時間なんてナンボのもんやボケ。わいが着いたときが集合時間や)なんて思って余裕こいているのだろう。
そうか。Justってのは、その筋系のチームだったのか。今回の回航も、そのような連中ばかりが乗るのだろうか?
ああー。先が思いやられるぞ。

これが岸田のショーケンとの初めての出会い。
岸田は関西弁に詳しくなく、記憶も曖昧なので、具体的な言いまわしについては実際の会話と異なる点があるかも知れませんが、ショーケンの言葉が巻き舌バリバリの関西弁だったことだけは確かです。
しかし、本当の集合時刻は何時だったのだろう?

     

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