ベトナム紀行 チャーリー岸田
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その6 - 怪しいやつら 今回はベトナムで会った怪しい連中の特集です。 ■「あの店高いよ」 ホーチミン市に到着しホテルに荷物を降ろすと、我々はそのまま晩飯に出掛けた。何しろここ数時間機内食しか食べていなかったので腹ペコだ。 専務と岸田は社長に案内されて深夜のホーチミン市内に繰り出した。 食堂に入ろうとすると、現地の怪しい客引きのオヤジが声を掛けて来た。 なんだなんだ? このオヤジは我々を別の店に連れて行こうとしているようだ。しかし我々は客引きオヤジを無視して社長の馴染の食堂に入った。 店を出ると、また別の客引きが声を掛けて来る。 なんだこれは? 『あの店』って、どの店だ? 我々はホテルに向って歩いているだけなのに・・・・・・。 おそらくこの近辺では、どのような経緯かは判らないが、何かの手違いで「あの店高いよ!」のフレーズが客引き用語として意味も判らずに使われているらしい。
翌日の午後、アジア雑貨屋のスタッフが商談に出掛けて居る頃、岸田はサイゴン川近くの公園のベンチに居た。ホーチミン市内を歩き回った後にベンチに腰掛けて休んでいたのだ。 いったい『あの店』ってのは何だ? ここには店など一軒もないではないか? 馬鹿の一つ覚えでこのフレーズばかり繰り出して来る。ただひたすらにウザい。しかしこんな間抜けな客引きのカモになる日本人など居るのだろうか? ■タクシー ベトナムは東南アジアでは比較的治安の良い国なのだが、タクシーにはインチキなやつが多いようだ。 市場での仕入の帰り、我々は赤いタクシーを探したのだがこの近辺には見つからない。黄色のタクシーも居ない。この灼熱の中、重い荷物を担いで歩くのは辛いので仕方なく目の前に居た白いタクシーを拾った。 この国のタクシー運転手は、前に乗せた客の運賃をメーターに表示したまま次の客を乗せる場合があるのだ。つまり運賃の二重取りだ。そのためタクシーに乗るときにはちゃんとメーターがリセットされたかどうか確認する必要がある。 メーターをリセットし、タクシーはホテルに向って走りだした。ところがメーターが異常に早いタイミングでどんどん上がって行く。 ベトナム人は器用なので、タクシーのメーターをいじって通常よりも早いタイミングで料金が加算されるように細工してある場合があると言う。タイやインドネシアでは考えられない芸の細かさだ。このような場合、証拠がないので不正を訴えてもこちらに勝ち目がないようだ。他の東南アジア諸国の人間であれば、こちらの押しが強ければ交渉の余地があるが、強情なベトナム人相手に交渉するほどの気力は持っていない。 ほんの数kmの距離で\300近い料金を払って車を降りた。 さすがは商売人である。ジャパンマネーを持った我々の感覚では「まっ、いいか」で済む金額なのだが、商売人にはこのような理不尽な出費だけは悔しくて仕方ないようだ。 ■バイクタクシー
これが旅行ガイドにも「一番性質が悪い」と書いてある乗り物だ。 そら来た。これがインチキなやつが必ず聞く質問だ。 観光客に対して詐欺を働いた場合、その観光客が明日帰る予定であれば、犯人は明日まで隠れて居れば良い。長期滞在する相手であれば、後で見つけられる可能性が高いので同じ場所で詐欺行為がやり難くなる。そのためにインチキな連中はまず最初にカモの滞在期間を聞いて来るのだ。決してこう言うやつに、「明日帰る。」などと言ってはいけない。 とにかくしつこい。ベトナム人は根気強いのだ。タイ人ならば簡単に諦めるのに・・・。 運転手はオートバイで歩く岸田の横を走りながら、ポケットから紙を取り出した。そこには下手な日本語で何か書いてある。 「この運転手は信用できる人です。この人のおかげで楽しい旅行ができました。」 わはははは! これは『地球の歩き方』に書いてある詐欺のパターンそのまんまである。本当に居るんだ、そんなやつが! 誰が書いたのか判らないが、この日本語の紙で客を信用させようとしているのだ。わははははっ! それでもこの運転手は、しつこくしつこく着いて来た。 ■ベトナム航空
岸田はグエンティミンカイ通りを渡ろうとしていた。この通りを渡って戦争証跡博物館に行くつもりなのだが、オートバイの流れが切れずに渡るタイミングを測りかねていたのだ。 その男性は岸田を手招きして道路を横断し始めた。彼に着いて行けば簡単にオートバイを避けながら大通りを横断できるのだ、なんと親切なやつだろう。 歩きながら彼は会話を続ける。 いきなり男は日本語で話し始めたのだが、極めて流暢な発音の日本語である。 親切な男だった。そして男と別れ。戦争博物館に行くと、なんとそこは『昼休み』だったのだ! 11:30から13:30まで2時間の間、昼休みのために休館となるのだ! さすがは社会主義国である。一般にベトナム人は勤勉なのだが、公共機関はお役所仕事なのだ。
仕方なく岸田は今来た道を戻り始めた。そして先ほど男に出会った交差点に行くと、またあの男が立っているではないか! 早速男は岸田に声を掛けて来た。 男の勧誘は延々と続く。おそらく先ほど最初に出会ったときにしつこく迫って来なかったのは、この時間帯は戦争博物館が昼休みで岸田が戻って来ることを想定していたのだろう。 段々男の目が真剣になって来る。先ほどの紳士的な目ではない。岸田はそのままオートバイの大群をかき分けて大通りを渡った。振り返ると男は悔しそうな目でまだこちらを見ていた。 これで観光地名物の怪しいやつのパターンを一通り見物できた訳だ。たった2日の旅行でこれだけの名物を見物できるなんて、俺は運が良い。今度この街に来たときには、怪しいオヤジに着いて行って見るのも楽しいかな? つづく |