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フィリピンな人々 (サプライズド フィリピナス番外編)
by チャーリー岸田
 
その3 - サリー
サリー

 この写真はマリアの娘「サリー」。23歳。

 マリアは日頃日本のフィリピンパブで、お客に、

「ワタシ、この店では店長の命令で29歳って言っているけど、本当は34歳なの。××さん(お客の名)にだけは嘘つきたくないから本当の歳を教えるよ。」

 〜などと言って錦糸町商店街のオッサンたちを騙しているのだが、実はそれでも10歳もサバを読んでいて本当は44歳である。もうこんなでかい娘が居るのだ!(ちなみに長男は26歳)。

 サリーは子供の頃からスチュワーデスになって外国に行くことが夢であった。そして母親のマリアが日本で稼いだお金で高等教育を受け、スチュワーデスの国家資格を取得した。この国ではスチュワーデスになるためには国家試験を受ける必要があるのだ。

 その昔の日本でもそうであったように、後進国ではスチュワーデスは非常にステータスのある職種である。先進国では女性の職業にも選択肢が多く、

「スチュワーデスなんて、結局『空飛ぶウェイトレス』じゃないか」

 〜などと言う人も居るのだが、フィリピンにおけるスチュワーデスのステータスは日本の比ではない。

 サリーはその国家資格に合格した訳だが、それだけですぐに飛べる訳ではない。資格を持っていても航空会社にスチュワーデスの欠員が出なければ採用されないのだ。ここでもまた狭き門があるのである。

 そこでサリーはマニラ空港の地上スタッフとして働き、そしてその勤務実績が認められてフィリピン航空から次回のスチュワーデス採用試験を受けるようオファーを受けた。その試験も倍率の高いものだが、もう夢の実現は目の前である。


 しかしサリーは突然マニラ空港勤務を辞め、スチュワーデス採用試験も棄権してしまった。スチュワーデスよりも美味しい話が舞い込んで来たからだ。それは、

『母親のマリアのコネクションで、日本で働けるかも知れない』

 それが理由である。


 何だそれは!!

 日本人の我々から見れば、東京の場末のネオン街で歌ったり踊ったり酔っ払いの話し相手をしたり、そんな仕事よりもスチュワーデスの方が何倍もやりがいのある職業に思えるのだが、彼女たちの基準はそうではない。フィリピン航空のスチュワーデスになるよりも、日本のネオン街に出稼ぎする方が遥かに狭き門であり、ステータスのある話なのだ。

 日本で働いているフィリピーナを見ると、我々日本人は、

「家族のために、慣れない国でタコ部屋に住んで夜遅くまで場末のネオン街で働いて・・・・・・出稼ぎも大変だなあ。」

 〜などと思ってしまうのだが、フィリピーナの意識は大きく異なるようである。日本のネオン街での仕事は非常に魅力的な職種であるようだ。

 たしかにお金の面から見ればそうかも知れない。フィリピン航空の職員になっても、家族や親類縁者一同の生活の面倒を見て、その上豪邸を建てるなど難しい話だ。しかし日本で働けばそれも可能になる。しかし・・・・・・。

 サリーはやはり子供の頃からの夢を捨てずにスチュワーデスになるべきだ。日本のネオン街に来てもお金以外に得るものなど何もない。くだらない男に騙されて摺れた女になるだけだ。

 フィリピンの人々も、タイ人のように自国の文化に誇りを持って地に足の着いた生活をするべきだ。貨幣価値の違う外国で安易に大金を得る手段を覚えてしまったこの国の人々は、そのお金と引き換えにもっと大事なものを失っているのではないか?

 サリー! やっぱり君はスチュワーデスを目指せ! そして世界を回って見聞を広めるのだ!

マリア 「岸ちゃん。そう言うならサリーと結婚してよ。」
岸田 「嫌だっ!!」
マリア 「どうして嫌なの?」
岸田 「動機が不純だから。」

 現在のフィリピン人にとって、日本の永住ビザはゴールデン・スペシャル・スーパー・プラチナ・カードである。これさえあれば全てが思いのまま。入国管理局の目も気にせず日本で思う存分働けるのだ。そんなカードが手に入るのであれば、若い女性がむさい中年のオヤジと結婚することなど何でもないことなのだ。


 フィリピン人よ目を覚ませ! 君たちには君たちなりの良さがあるだろう! たとえ貧乏でも明るく屈託なく生きて行けるパワーがあるではないか! 日本で金を稼ぐよりも、フィリピン国内で充実した人生を送れる可能性があるだろう!

 しかしそれも先進国で生まれた人間の甘ったれた考えなのだろうか?



おわり


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